第510章 嫁げないなら、僕が娶ろう(10)

鈴木和香は個室のドアまで歩いて行き、手を伸ばしてドアを押した。まだ中に入っていないうちに、来栖季雄の声が聞こえてきた。

「グアムで聞いたその話が本当とは限らないって?今日、椎名佳樹が他の女性と食事をしているのを見たんだが……」

鈴木和香は入ろうとした足を止め、ドア前で立ち止まった。すると来栖季雄が少しイライラした様子で電話をする声が聞こえてきた。

「前にも言ったはずだが?最近は会社に行かないから、用件はメールで送ってくれ。夜に処理するから。」

「明日の会議?無理だ、行けない……先方が私の出席を強く要求している?なら取引はなしだ……違約金?好きにしろ……」

彼女は尋ねていた。翌日会議があるのに、なぜ一日早くグアムから東京に戻ってきたのかと。

彼は向こうの仕事は他の人に任せて、東京の会社で処理すべき別件があったから戻ってきたと言った。