「はい、分かりました」アシスタントは返事をした後、気遣いながら付け加えた。「鈴木さん、来栖社長が目を覚ましましたら、お電話を返すようにお伝えいたします」
「ありがとうございます」
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アシスタントは身支度を整えてから、来栖季雄の部屋へ向かった。
昨夜、来栖季雄の部屋のカードキーを用意していたので、まずドアをノックし、中から反応がないのを確認してから、カードで解錠して入室した。
リビングには誰もおらず、アシスタントが寝室のドアを開けると、室内に充満したタバコの臭いで思わずくしゃみを二回した。
ベッドは少し乱れており、来栖季雄の姿はなく、バスルームのドアが閉まっていて、中から水の音が聞こえてきた。アシスタントは鼻をつまみながら窓際に歩み寄り、サイドテーブルの上に長短様々な吸い殻が山積みになっているのを見つけた。窓を開けて外の新鮮な空気を思い切り吸い込んだ瞬間、背後でバスルームのドアが開く音がした。
アシスタントは以前、来栖季雄のマネージャーを務めていた時から、彼の衣食住について口うるさく世話を焼くのが習慣で、今でもその癖は直っていなかった。「社長、昨夜はなぜそんなにタバコを吸われたんですか?何度も申し上げていますが、喫煙は健康に良くありません。どうしても禁煙できないのなら仕方ありませんが、せめてこんなに吸いすぎないでいただけませんか?」
来栖季雄はアシスタントの小言に一瞥もくれず、半濡れの髪のまま、シャツを手に取って着用し、素早く指を動かしてボタンを留めていった。
アシスタントは一人でしばらく独り言を言った後、朝の鈴木和香との電話のことを思い出し、再び口を開いた。「社長、時間がありましたら、鈴木さんにお電話を返していただけますか」
来栖季雄はネクタイを締める動作を一瞬止めたが、何も言わなかった。
アシスタントは事の経緯を説明した。「昨夜、鈴木さんがお探しでしたが、携帯電話の電源が切れていたため、私の方に電話がありました。今朝になって気づき、先ほど鈴木さんにご連絡を返したところです」
来栖季雄は「ん」と一声出し、スーツを着て、ボタンを留め、脇に置いてあった書類を手に取って、ドアの方へ歩き出した。
アシスタントは慌てて後を追った。
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