第496章 婚約破棄(16)

「はい、分かりました」アシスタントは返事をした後、気遣いながら付け加えた。「鈴木さん、来栖社長が目を覚ましましたら、お電話を返すようにお伝えいたします」

「ありがとうございます」

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アシスタントは身支度を整えてから、来栖季雄の部屋へ向かった。

昨夜、来栖季雄の部屋のカードキーを用意していたので、まずドアをノックし、中から反応がないのを確認してから、カードで解錠して入室した。

リビングには誰もおらず、アシスタントが寝室のドアを開けると、室内に充満したタバコの臭いで思わずくしゃみを二回した。

ベッドは少し乱れており、来栖季雄の姿はなく、バスルームのドアが閉まっていて、中から水の音が聞こえてきた。アシスタントは鼻をつまみながら窓際に歩み寄り、サイドテーブルの上に長短様々な吸い殻が山積みになっているのを見つけた。窓を開けて外の新鮮な空気を思い切り吸い込んだ瞬間、背後でバスルームのドアが開く音がした。