来栖季雄の教室を通り過ぎる時、彼女はいつものように窓から中を覗き込んでみると、白いシャツを着て机に座っている来栖季雄の姿が目に入った。
その時、クラスでは物理の授業が行われており、先生は教壇で熱心に話をしていた。生徒たちは皆真剣に授業を聞き、ノートを取っている者もいたが、来栖季雄だけは俯いて鉛筆を持ち、机の上に広げた白い紙に何かを描いていた。時々消しゴムで消しては、また描き直していた。
隣の席の生徒が彼の授業中の気の緩みに気付いたようで、彼が描いている紙を覗き込もうとした。しかし来栖季雄は素早く反応し、本でその紙を隠してしまった。
二人の動きが授業中の先生の注意を引き、先生は直接名指しで質問をした。
来栖季雄の隣席の生徒は立ったまま、もごもごと答えられなかったが、ずっと真面目に授業を聞いていなかった来栖季雄は、まばたきひとつせずに答えを明確かつ正確に述べた。
そして来栖季雄の隣席の生徒は先生に後ろの黒板の前に立たされることになり、席に座った来栖季雄は白い紙の上に置いた教科書をめくり、また真剣に集中して描き続けた。
あの頃の来栖季雄は、今のような成熟した魅力はなく、幼く初々しい容姿だった。でも、授業中に気が散っていた彼の姿は、彼女の若い心の中で神々しく映り、やはり彼女の愛する少年は、授業をサボっているときでさえかっこよかった!
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鈴木和香はニュースが終わるまで待ってからベッドから起き上がり、身支度を整えた後、出前を頼み、そして電池残量が少なくなった携帯電話を充電した。
来栖季雄の秘書が言っていた通り、来栖季雄から電話があるはずだった。
鈴木和香は昼間から夜の7時まで待ち続けた。
待つことは人の意志を最も消耗させる。鈴木和香は待ちくたびれて気が狂いそうになるのを恐れ、部屋の整理を始めた。
彼女は自分の服を全部畳み直し、一度しか着ていない服を洗濯機で洗い、ベランダに一枚一枚干しに行った。最後の二枚を干そうとしたとき、やっと携帯電話が鳴った。
鈴木和香は急いで寝室に戻った。慌てていたため、脚が物干し竿にぶつかり、膝を打って涙が出るほど痛かった。
しかし鈴木和香は自分の怪我を確認する余裕もなく、すぐにソファまで走り、携帯電話を手に取ったが、電話をかけてきたのは来栖季雄ではなく、鈴木夏美だった。