第498章 婚約破棄(18)

鈴木和香は電話を切り、金色宮で一人狂ったように歌っている鈴木夏美のことが気になり、服を着替えて財布を持って出かけた。

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鈴木和香は金色宮のフロントで鈴木夏美の名前を告げると、従業員が鈴木夏美のいる個室まで案内してくれた。個室のドアの前に着くと、中から鈴木夏美の心を引き裂くような歌声が聞こえてきた。

鈴木和香が個室のドアを開けると、鈴木夏美がテーブルの上に立ち、頭を上げて声を張り上げていた。周りには空き瓶が散らばっていた。

鈴木和香はドアを閉め、鈴木夏美の側まで駆け寄り、手を伸ばしてテーブルから引きずり下ろした。「夏美、気が狂ったの?」

鈴木夏美は鈴木和香を見つめながら、まだ歌い続けていた。歌っているうちに涙が流れ始め、最後にはマイクを握ったまま地面に蹲り、声を上げて泣き始めた。

鈴木夏美のマイクはまだオンになっており、マイクを通して個室中に彼女の泣き声が響き渡っていた。

これは恐らく鈴木和香の人生で初めて、鈴木夏美がこれほど悲しみに暮れて泣く姿を見た瞬間だった。少し慌てながら、彼女は選曲機のところまで行って音楽を止め、それから鈴木夏美を地面から引き起こし、近くのソファーに座らせ、従業員に温かいお茶を頼んだ。

鈴木和香は温かいお茶を持って、鈴木夏美に数口飲ませ、少し乱れた髪を整え、近くからティッシュを取って鈴木夏美の顔の涙を拭き取った。

鈴木夏美は確かに少し飲み過ぎていたが、幼い頃から椎名佳樹と酒を飲み合っていたため、驚くほどの酒量があった。数口の温かいお茶を飲んで、頭もだいぶ冴えてきた。心配そうに自分の世話をする鈴木和香を見て、さらに激しく涙を流した。

「姉さん、一体どうしたの?」鈴木和香は心配そうに尋ねた。

鈴木夏美は涙を流しながら首を振り、手を伸ばして鈴木和香を抱きしめ、肩に顔を埋めて静かにすすり泣き始めた。

鈴木和香は何も言わず、ただ静かに鈴木夏美を抱きしめ、時々手を上げて鈴木夏美の背中をさすっていた。

鈴木夏美は長い間泣いて、やっと感情が落ち着いた。鼻をすすり、「和香」と呼びかけた。

「うん?」

鈴木夏美は鈴木和香の優しい声を聞いて、口まで出かかった言葉が、どうしても言えなくなった。

本当は「ごめんなさい」と言いたかったのに、言う勇気が出なかった。