「それと、何か探し物があったら、分からないことがあったら、私に聞いてね」
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来栖季雄は午前中ほとんど仕事が手につかず、会議中も頻繁に心ここにあらずの状態で、昨夜起きたことすべてが、まるで夢のように非現実的に感じられた。
ようやく会議が終わり、来栖季雄はオフィスに戻ると、携帯を取り出して鈴木和香にLINEを送った:【起きた?】
鈴木和香はダイニングテーブルで来栖季雄が用意した朝食を昼食として食べているところで、手に揚げパンを持っていたため打ちにくく、片手で音声メッセージを押して、もごもごと言った:「起きたよ」
来栖季雄:【何してるの?】
鈴木和香は直接写真を送ってきた。
来栖季雄は見慣れた自宅のダイニングと朝買った朝食を見て、午前中ずっと抱いていた幻想が、やっと少し落ち着いた。
これは夢じゃない、鈴木和香は椎名佳樹と婚約を解消し、独身になって、しかも彼の家に住んでいる……
一瞬、来栖季雄は自分の気持ちを言い表すのが難しくなった。鈴木和香と一緒になることなど望むことさえできなかった心が、少しずつ目覚め始め、希望が見えてきたような気がしたが、自信が持てなかった。
彼はその女性を十三年間も愛し続け、ほら彼女が椎名佳樹と恋に落ちたため、諦めるしかなかった。今や彼女と椎名佳樹の関係が終わり、やっとチャンスが巡ってきた。だからどんなことがあっても、全力で掴み取りに行くつもりだった。
良好な友情関係を恋愛関係に変えるには、どれほどの勇気が必要なのか、誰も知らない。なぜなら、一瞬の判断で、パラダイスか地獄かが決まってしまうから。
これは賭けのようなもので、結果について来栖季雄には全く確信がなかったが、どうあれ、今回は引き下がったり手放したりはしない。
十三年間も待ち続けた……十三年もの歳月を経て、やっと積極的になれるチャンスを得たのだから。
どうせ人生はまだ長い、一年で追いつけなければ、二年、三年、四年かければいい……最悪でもまた十三年、二十三年かければいい……
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午後の会議の前、来栖季雄はまた鈴木和香にLINEを送り、同じように彼女が何をしているか尋ねた。
会議が半ばに差し掛かった頃、鈴木和香からようやく返信があり、音声メッセージだった。耳に当てると、テレビを見ていると言う彼女の声と、背景にテレビのCMの音が聞こえた。