秘書の力が強すぎて、来栖季雄の体が揺れ、スマートフォンで入力中の指が震え、鈴木和香から送られてきた音声メッセージを誤ってタップしてしまった。
すると、静かな会議室に、鈴木和香の柔らかく温かい声が響いた。「日本の歌声の再放送を見てるの。」
鈴木和香の声の向こうから、大野のスムーズな声も聞こえてきた。「日本の歌声、本物の涼茶。」
会議室全体が一瞬にして静まり返った。来栖社長が会議中に女性とチャットをしているなんて、しかもその女性の声がどこか聞き覚えがある……
誰も声に出して議論する勇気はなかったが、明らかに視線で会話を交わし始めていた。
来栖季雄がまぶたを上げ、秘書を一瞥すると、秘書は手で顔を隠した。
全員が来栖季雄が恥ずかしさのあまり怒り出し、秘書を叱りつけると思った時、来栖季雄は視線を戻し、再びスマートフォンでの入力を続けた。
秘書を含む全員が、信じられない様子で目を見開いた。
来栖季雄の隣に座っている副社長が、好奇心から首を伸ばして来栖季雄のスマートフォンを覗き込むと、LINEでチャットをしており、さらには口元に微笑みさえ浮かべているのが見えた。
会社の社員たちは、来栖季雄が笑う姿を見たことがなかったため、副社長は少し大胆になった。「来栖社長、誰とチャットしているんですか?」
「ある女性です。」
「……」来栖季雄の答えに、全員が言葉を失った。先ほどの音声は皆はっきりと聞いていたのだから。
来栖季雄は鈴木和香にメッセージを返信し、顔を上げると、さらに一言付け加えた。「今、追いかけているところです。」
スキャンダルとは無縁だった来栖スターが、女性を追いかけているなんて……たちまち会議室内の全員の八卦心が刺激され、会議どころではなくなった。おそらく先ほど副社長が口を開いたせいで、他の大胆な社員たちも次々と話に加わり始めた。
「どんな女性なんでしょうか、来栖社長があえて追いかけるなんて。」
「来栖社長が女性を追いかける必要があるんですか?女性の方から寄ってくるんじゃないですか?」
その中の一人の女性社員が、羨ましそうな口調で言った。「その女性、きっとすごく綺麗なんでしょうね?」