来栖季雄はその日、早めに仕事を切り上げた。これは長年の勤務の中で初めて、こんなにも切実に帰宅したいと思ったことだった。道中では信号無視までしてしまうほどだった。
パールガーデンに戻った来栖季雄は、鍵を取り出してドアを開け、靴を脱ぎながら鈴木和香の名前を呼んだが、返ってきたのは静寂だけだった。
来栖季雄は再び鈴木和香の名前を呼び、眉間にしわを寄せながら、スリッパを片方しか履かないまま急いで二階に上がり、寝室のクローゼットに駆け込んだ。和香の服がまだ全て掛かっているのを確認して、やっと安堵の息をつき、携帯を取り出して和香に電話をかけた。
今回、鈴木和香はすぐに電話に出た。彼女がどこにいるのかは分からなかったが、周りは騒がしく、電波も良くなかった。彼女の声は途切れ途切れで、しばらくしてようやく周りが静かになった。「どうしたの?」
「どこにいる?」
「都市開発ビルの近くのスーパーよ。」
スーパーはパールガーデンから遠くなかった。来栖季雄は車を使わず、そのまま歩いて向かった。スーパーの入り口に着いた時、ちょうど鈴木和香が大きな買い物袋を持って出てくるところだった。
来栖季雄は急いで前に歩み寄った。
鈴木和香は携帯を取り出し、まだ5時半だと確認して不思議そうに尋ねた。「どうしてこんなに早く帰ってきたの?」
「特に用事もなかったから。」来栖季雄は買い物袋を受け取り、中に野菜や調味料がたくさん入っているのを見て、思わず眉をひそめた。
鈴木和香は説明した。「最近ずっと外食で、胃の調子が悪くなってきたの。」
来栖季雄は「うん」と返事をし、それ以上は何も言わず、鈴木和香と肩を並べてマンションの方向へ歩き始めた。
ちょうど夕暮れ時で、赤い夕日が二人の帰り道を照らしていた。両側には多くのお年寄りがゆっくりと散歩を楽しんでいた。鈴木和香は横を向いて、来栖季雄の信じられないほど端正な横顔を見つめ、ふと一つの言葉を思い出した:最も美しい願いとは、毎日の夕暮れ時に、涼しい風を感じながら、あなたと手を繋いで夕日に向かって帰る道すがら。
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鈴木和香が料理を作り、来栖季雄が皿を洗う。まるで新婚の仲睦まじい夫婦のような息の合った連携だった。