椎名佳樹は車に乗って去って行き、松本雫はまだその場に立ち尽くしたまま、窓の外を見つめていた。
これは彼女が二度目に彼を怒らせて去らせたときだった。一度目に彼を怒らせて去らせたとき、彼は交通事故に遭った。
実は彼女にはずっと分からなかった。彼はいったいどこからそんなに大きな怒りが湧いてくるのか。怒りや絶望を感じるべき人間は、彼女のはずではないのか?
100万円で、彼女は自分を七年間彼に売った……なんと安い金額だろう。もし彼女の心の中に彼がいなかったら、どうして名も分からぬまま七年間も彼についていけただろうか。
そう、名も分からぬまま。
この七年間、彼女は彼の愛人に過ぎなかった。彼の友人に会ったこともなければ、普通のカップルのように街中で手をつないで歩いたこともない。
最初は、大丈夫、時間が経てば愛情も生まれるだろうと思っていた。でも七年経っても、愛情は生まれるどころか、むしろ彼の結婚の知らせを聞くことになった。
花嫁は彼女ではなかった。
彼女という日の目を見ない愛人は、誰もが非難する不倫相手になろうとしていた。
彼女は永遠に忘れられない。あの日目覚めたとき、偶然に聞いてしまった彼の電話での会話を。
「年齢も適齢期だし、そろそろ結婚しないとな……今年結婚する予定だ……その時は帰国して祝いに来てくれよ……大学時代に金色宮で100万円で買った女の子のことか?今でも連絡は取ってるよ……どうしようもないだろう、結婚しても今みたいな関係を続けるしかない……まさか彼女と結婚するわけにはいかないだろう。俺が相応しい家柄の女性と結婚しなければならないのは分かってるだろう……」
「相応しい家柄」という四文字の言葉は、なんと鋭い刃物のように彼女の全身を刺し貫いた。
その瞬間、彼女は理解した。庶民の出である彼女は、永遠にシンデレラにはなれず、お金持ちの王子様と結婼することはできないのだと。
たとえ七十年待っても、彼女は堂々と彼の側に立つことはできないのだ。
七年間、日の目を見ない場所に隠れて過ごし、彼女は本当に疲れ果てていた。
ある人との関係は、最後まで一緒にいられないと分かっているなら、早めに終わらせた方がいい。
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