第443章 なぜ私の子供を望まなかったの?(3)

椎名佳樹は車に乗って去って行き、松本雫はまだその場に立ち尽くしたまま、窓の外を見つめていた。

これは彼女が二度目に彼を怒らせて去らせたときだった。一度目に彼を怒らせて去らせたとき、彼は交通事故に遭った。

実は彼女にはずっと分からなかった。彼はいったいどこからそんなに大きな怒りが湧いてくるのか。怒りや絶望を感じるべき人間は、彼女のはずではないのか?

100万円で、彼女は自分を七年間彼に売った……なんと安い金額だろう。もし彼女の心の中に彼がいなかったら、どうして名も分からぬまま七年間も彼についていけただろうか。

そう、名も分からぬまま。

この七年間、彼女は彼の愛人に過ぎなかった。彼の友人に会ったこともなければ、普通のカップルのように街中で手をつないで歩いたこともない。

最初は、大丈夫、時間が経てば愛情も生まれるだろうと思っていた。でも七年経っても、愛情は生まれるどころか、むしろ彼の結婚の知らせを聞くことになった。