第469章 安らかで素敵な時(9)

車がまだ完全に停止していないうちに、来栖季雄は車のドアを開けて降り、大股で前に停まっている車に向かって歩いていった。まだ到着する前に、椎名佳樹が車から降りて鈴木和香を抱きかかえ、救急外来に向かって走っていくのが見えた。鈴木夏美は車を施錠しながら、追いかけていった。

来栖季雄の足取りはほんの少し躊躇しただけで、すぐに後を追った。

病院では意識不明の患者を見るや否や、すぐに鈴木和香を手術室へ運んだ。

椎名佳樹は待合室の椅子に座り、心配そうな表情を浮かべていた。

一方、鈴木夏美は落ち着かない様子で、座っては立ち上がり、時々ハイヒールを履いたまま椎名佳樹の前を行ったり来たりしていた。

椎名佳樹は鈴木夏美の動きに心が乱され、思わず顔を上げて言った。「鈴木さん、少し静かに座っていられませんか。」