第485章 婚約解消(5)

赤嶺絹代は政務に追われ、知り合いはみな顔の利く人ばかりだった。見知らぬ若い顔を見ても特に印象に残らず、眉を上げただけで、立ったまま何も言わなかった。

林夏音はハイヒールを履いて、しなやかに赤嶺絹代の前まで歩み寄り、笑顔を保ちながら手を差し出して自己紹介した。「椎名夫人、私は林夏音と申します。」

赤嶺絹代は林夏音が差し出した手を一瞥したが、握手をする気配は全くなかった。

赤嶺絹代の傍らに立っていた秘書は、礼儀正しく尋ねた。「お嬢様、何かご用件でしょうか?」

秘書が尋ねたにもかかわらず、林夏音は赤嶺絹代に尋ねられたかのように、赤嶺絹代の目をまっすぐ見つめて言った。「椎名夫人、鈴木和香という方は、あなたの息子様、椎名佳樹様の奥様、つまりお義理の娘さんですよね?私がお会いしたのは、鈴木和香についてお話ししたいことがあるからです。」