第485章 婚約解消(5)

赤嶺絹代は政務に追われ、知り合いはみな顔の利く人ばかりだった。見知らぬ若い顔を見ても特に印象に残らず、眉を上げただけで、立ったまま何も言わなかった。

林夏音はハイヒールを履いて、しなやかに赤嶺絹代の前まで歩み寄り、笑顔を保ちながら手を差し出して自己紹介した。「椎名夫人、私は林夏音と申します。」

赤嶺絹代は林夏音が差し出した手を一瞥したが、握手をする気配は全くなかった。

赤嶺絹代の傍らに立っていた秘書は、礼儀正しく尋ねた。「お嬢様、何かご用件でしょうか?」

秘書が尋ねたにもかかわらず、林夏音は赤嶺絹代に尋ねられたかのように、赤嶺絹代の目をまっすぐ見つめて言った。「椎名夫人、鈴木和香という方は、あなたの息子様、椎名佳樹様の奥様、つまりお義理の娘さんですよね?私がお会いしたのは、鈴木和香についてお話ししたいことがあるからです。」

赤嶺絹代はビジネス界で長年揉まれてきただけあって、感情を表に出さない術を身につけていた。心の中では何事かと気になっていても、表情は依然として水のように穏やかだった。

林夏音は赤嶺絹代のそんな高慢な態度を見ても腹を立てず、むしろバッグから数枚の写真を取り出して、赤嶺絹代に差し出した。

赤嶺絹代の秘書が写真を受け取り、赤嶺絹代の前に掲げた。赤嶺絹代はちらりと見ただけで表情が一瞬にして冷たくなり、ようやく林夏音に向かって最初の言葉を発した。「この写真はどこから入手したの?」

林夏音はまさにこの効果を狙っていた。義理の母が不機嫌になれば、鈴木和香の日々も楽ではなくなるだろう。心の中で喜びが閃いたが、表情は相変わらず平静を装い、さも何気なく言った。「これは先日、ある友人から入手したものです。椎名夫人、ご存じないのですか?東京のビジネス界では、多くの人がこの件を知っています。みんな密かに噂しているんです。椎名家のお嫁さんが環映メディアのCEOと撮影で親密になって…」

林夏音の言葉が終わらないうちに、赤嶺絹代は遮った。「もういい!」

赤嶺絹代の強い威圧感に、林夏音の心に一瞬の恐れが走った。

赤嶺絹代は林夏音を一瞥しただけで、秘書の手から写真を奪い取り、一言も発せずに車に乗り込んだ。

秘書はすぐさま察して車に乗り、発車した。