「馬場萌子、これに決めたわ!あなたが車で私にぶつかるの。本当らしく演技してね。来栖季雄はきっと私を助けに来るはず。そうしたら来栖季雄を捕まえて、逃がさないわ……」
タバコ一箱だけで、来栖スターが来たと確信できるの?
馬場萌子は興奮している鈴木和香を見つめながら、最後まで黙っていた。鈴木和香の気持ちを傷つけたくなかったからだ。この頃、彼女は以前と変わらず、撮影もこなし、食事も普通に取っているように見えた。でも、長年の友人である自分には分かっていた。鈴木和香は毎日不幸せで、真夜中に目が覚めると、ベッドで一人こっそり泣いている声が何度も聞こえてきたのだ。
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馬場萌子がどう思おうと、鈴木和香は昨夜来た人物が来栖季雄で、このタバコも来栖季雄のものだと確信していた。
来栖季雄を4ヶ月も探し続けて、やっと手がかりを掴んだ今、鈴木和香は胸に乗っていた大きな重荷が突然消えたかのように感じ、呼吸も楽になった気がした。
荷物の整理が終わると、そのタバコの箱を大切そうに自分のバッグに入れた。
東京に戻る飛行機の中で、鈴木和香は何度もバッグからそのタバコを取り出しては眺めていた。
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東京に戻って二日目、鈴木和香は鈴木夏美からの電話を受けた。
鈴木和香はずっと自分に言い聞かせていた。来栖季雄が彼女を探していた時に、自分が病院にいることを伝えなかった鈴木夏美を責めてはいけないと。来栖季雄が好きなのは自分だと知ったら、鈴木夏美の心が傷つくのは当然だと理解していた。
理解はしていても、鈴木和香はいつも考えてしまう。もしあの時、鈴木夏美が来栖季雄に自分が病院にいることを伝えていたら、今の状況は違っていたのではないかと。
本当に鈴木夏美を恨んではいなかったが、心の中では常に悲しい気持ちがあった。だから鈴木夏美から電話がかかってくるたびに、しばらく躊躇してから、感情を落ち着かせてから電話に出るようにしていた。
「和香、どうしてこんなに時間がかかったの?」鈴木夏美の声は相変わらず澄んでいて可愛らしかった。
鈴木和香は嘘をついた。「今、お風呂に入ってたの」
「もう昼の12時よ。今起きたの?お昼ご飯まだでしょう?」
鈴木和香は軽く「うん」と答えた。「お姉ちゃん、何か用事?」