「馬場萌子、これに決めたわ!あなたが車で私にぶつかるの。本当らしく演技してね。来栖季雄はきっと私を助けに来るはず。そうしたら来栖季雄を捕まえて、逃がさないわ……」
タバコ一箱だけで、来栖スターが来たと確信できるの?
馬場萌子は興奮している鈴木和香を見つめながら、最後まで黙っていた。鈴木和香の気持ちを傷つけたくなかったからだ。この頃、彼女は以前と変わらず、撮影もこなし、食事も普通に取っているように見えた。でも、長年の友人である自分には分かっていた。鈴木和香は毎日不幸せで、真夜中に目が覚めると、ベッドで一人こっそり泣いている声が何度も聞こえてきたのだ。
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馬場萌子がどう思おうと、鈴木和香は昨夜来た人物が来栖季雄で、このタバコも来栖季雄のものだと確信していた。
来栖季雄を4ヶ月も探し続けて、やっと手がかりを掴んだ今、鈴木和香は胸に乗っていた大きな重荷が突然消えたかのように感じ、呼吸も楽になった気がした。