この世界には、結局のところ絶対的に善良な人などいない。善良で純真なのは、ただ極限まで追い詰められていないからだ。
赤嶺絹代のせいで、彼女と来栖季雄は一度目も二度目も行き違ってしまった。もし彼女がいなければ、自分と季雄はもう一緒になっていたかもしれない。
我が子を失う悲しみ、恋人を引き裂かれる苦しみ……これほどの深い恨み、どうして見過ごせようか?
赤嶺絹代が彼女に負った借りは、最後には一つ一つ必ず取り返してやる。
彼女自身のためだけでなく、来栖季雄のため、そして亡くなった子供のために……
鈴木和香がここまで考えたとき、その目に鋭い光が宿り、いつもは優しく穏やかな顔にも背筋の凍るような冷気が漂った。
椎名家の居間で、赤嶺絹代に当てつけるように言った言葉は、決して単なる言葉だけではなかったのだ。