第618章 来栖季雄、私は妊娠しました(8)

鈴木和香がエレベーターから出てきた時、来栖季雄は既にフロントで支払いを済ませ、スーツケースを引きながらホテルの正面玄関を出ていた。

鈴木和香は少しも油断できず、急いで追いかけた。ロビーの入り口まで走ってきた時には、来栖季雄は既に路上でタクシーを止めていた。

鈴木和香は階段を踏みながらホテルの入り口から走り出て、路上に出てタクシーを止めようとした時、携帯に秘書からLINEが届いた:【来栖社長がアメリカ行きの便を予約されました。君、今すぐ空港へ向かってください。同じ便のチケットを手配しておきました。馬場さんには君のパスポートを取りに行って、何着か服を用意して空港で合流するようお願いしました。】

秘書が全てを手配した後、さらに言い添えた:【君、着陸後は必ず来栖社長から目を離さないでください。アメリカで見失ったら、本当に二度と見つけられなくなってしまいます。】

秘書からLINEが届いた時、鈴木和香は既にタクシーを止めており、メッセージを見るとすぐに運転手に空港を告げた。

夜の街を走り始めて10分も経たないうちに、鈴木和香の携帯に航空券予約完了の通知が届いた。

鈴木和香が空港に着いた時、馬場萌子は既に出発ロビーで待っていた。

鈴木和香がタクシー代を支払い、馬場萌子の指示通り国際線ゲート3へ向かった。まだ馬場萌子を見つけられないうちに、馬場萌子が車のドアを開け、彼女の名前を呼び、そしてドアを閉めて彼女の方へ急いで歩いてきた。まずパスポートを渡しながら言った:「和香、これパスポート。服は用意してないわ。何も持たずに行った方が、来栖スターの心を打つでしょう。」

鈴木和香は激しく頷き、「ありがとう」と言って、馬場萌子と別れて空港に入ろうとした時、馬場萌子が突然彼女の手を引き、小さな薬箱を渡した:「和香、これを持って行って。」

鈴木和香が薬箱を開けると、中には白い錠剤が1つだけあった。顔を上げて、不思議そうに尋ねた:「これ、何?」

馬場萌子は少し困ったような表情を浮かべ、左右を見回してから軽く咳払いをし、少し恥ずかしそうに鈴木和香の耳元に近づいて、小声で言った:「これは媚薬よ。水に溶けるの。大丈夫、体に害はないから。もしアメリカで来栖スターを落とせなかったら、これを使って!」