第625章 来栖季雄、私は妊娠しました（15）

元々「ダーリン」という言葉しか理解できなかったルーシーは、一瞬驚いた表情を浮かべ、再び来栖季雄を見つめて尋ねた。「季雄？妊娠？」

ルーシーの驚きは鈴木和香の目に留まり、まるで自分の彼氏に妻がいることを知って確認を求めているかのようだった。

彼女にそんな確認をさせるわけにはいかない。

まだ諦めていないのなら、少し意地悪になっても仕方ない！

そこで鈴木和香は来栖季雄の首に腕を回し、満面の笑みを浮かべながら、先ほど言った言葉を英語で甘々に繰り返した。「ダーリン、私、東京からわざわざ会いに来たの。ダーリン、飛行機で疲れちゃった。ダーリン、まだ夕食食べてないの、お腹すいた……」

鈴木和香の突然の行動に驚き、長い間呆然としていた来栖季雄は、ようやく我に返った。

誰か教えてくれ。鈴木和香は一体何をしているんだ？どんな芝居を演じているんだ？

来栖季雄はルーシーに申し訳なさそうな目を向けて言った。「申し訳ありません……」

彼のこの謝罪の言葉が鈴木和香の耳に入り、明らかにあの金髪美女を引き留めようとしているように聞こえた。そんな機会を与えるわけにはいかない。

咄嗟に、鈴木和香は考える間もなくつま先立ちになり、来栖季雄の頭を強く下に押し付け、異国の往来する大通りで、来栖季雄の口を塞ぎ、彼の「失礼します」という言葉を強制的に飲み込ませた。

久しぶりの柔らかさと温もりに、来栖季雄の全身の血が逆流し、まるで経絡を押さえられたかのように、鈴木和香を押しのけることもできなかった。

ルーシーは来栖季雄が「申し訳ありません」と言った時点で、次に「失礼します」と言うことを察していた。ただ、突然この黒髪の美しい小柄な女性が来栖季雄の唇を塞ぐとは思わなかった。思わず感嘆の声を上げ、その後笑いながら首を振り、二歩後ろに下がって車に乗り、エンジンをかけて去っていった。

鈴木和香は後ろから車の音が遠ざかるのを聞き、外国人女性を自分が首尾よく撃退できたと思い、内心少し得意になりながら、満足げに唇を来栖季雄の唇から離した。