その金髪の女性は、来栖季雄がかつてハリウッドで映画を撮影していた時に知り合った監督の妻で、心理医のルーシーだった。彼が今夜アメリカに戻ることを知り、特別に夕食に誘ってくれたのだ。
車がホテルの入り口に停まると、来栖季雄はルーシーに「ありがとう」と言って車のドアを開けて降りようとした。しかし、思いがけずルーシーも一緒に降りてきて、彼を呼び止めた。
来栖季雄が振り向くと、ルーシーは笑顔で話し始めた。「季雄、今夜はちょっと落ち着かない様子で、ずっと上の空みたいだけど、何か悩み事でもあるの?話してくれれば、私が助けられるかもしれないわ」
来栖季雄は淡々と答えた。「何でもないよ」
「季雄、私を騙すことはできないわ。私の職業を忘れないで。今夜、あなたが落ち着いて平静を装おうとしても、私にはあなたの様子の違いが分かるの。例えば、食事の時に19回も窓の外を見たり、私が車で送っている時に何度もバックミラーを見て考え込んだり、今夜の会話の中で4回も私の話に返事をしなかったり…」