第636章 入籍(6)

来栖季雄が前を歩き、彼女は後ろについて、空港まで進んでいった。

航空券は彼女が破ってしまっていたので、来栖季雄は新しいチケットを買い直し、彼女を入国審査場に連れて行き、パスポートと航空券を一緒に彼女の手に渡した。

鈴木和香は手の中に何かが入ってきたのを感じ、ようやくぼんやりとした意識が戻り、来栖季雄をじっと見つめたが、まだ大きな反応は示さなかった。

来栖季雄はポケットから財布を取り出し、予め用意しておいた札束を取り出して、さらに鈴木和香の手に押し込み、そして「中に入りなさい」と言った。

鈴木和香はその場に立ち尽くしたまま、黒い瞳から輝きが消え、依然として彼をじっと見つめていた。

来栖季雄は彼女の視線に心が乱れ、咳払いをして、少し掠れた声で「さようなら」と言った。

そして背を向けた。

彼はその場に約10秒間立ち止まり、決意を持って歩き出し、去っていった。

和香、今度こそ本当にさようなら、もう二度と会わない。これまで私をこんなにも傷つけたのに、それでもまだこんなにも深く愛している。

さようなら?

鈴木和香は眉間にしわを寄せ、うつむいて来栖季雄が渡してくれたお金を見た。すると何年も前、奈良駅で、財布をなくして無一文になった自分を見送る時も、同じようにお金を渡してくれて、東京に着いたら必ず無事を知らせるように言い付けてくれたことを思い出した。

でも今回は、彼は彼女にさようならを言った。

もう二度と会わないということ?

そんなの嫌だ!

馬場萌子が言っていた、彼が気にしているのは約束を破ったことじゃなくて、彼女が彼のことを好きかどうかということだって...彼も言っていた、怒っているわけじゃないから帰れと言ったんじゃないって。

そうだ、どうして私はこんなに馬鹿なの?こんなに鈍いの?彼が「君のことを忘れるよう努力する」と言っただけで、こんなに落ち込んで、どうして彼のことが好きだと伝えなかったの?

彼について東京からアメリカまで来て、ただバカみたいに何度も説明しようとしただけで、どうして自分も彼を愛していると伝えるのを忘れていたの?

鈴木和香の目に一瞬、希望の光が灯った。

もし彼に好きだと伝えたら、彼は私のことを忘れようとするのを止めてくれるんじゃない?

彼は13年間私を愛してくれて、私も13年間彼を愛してきた。