第635章 入籍(5)

「和香、私は怒っているわけじゃない、本当に怒っているわけじゃないんだ...」来栖季雄は静かな口調で言った。「今回は、自分のことを大切にしたいだけなんだ」

これまでの長い年月、あなたを愛するために、いつも先にあなたのことを考えて、その後で自分のことを考えていた。

そうすることが多くなりすぎて、自分も痛みを感じることができるということを忘れてしまっていた。

この世界で、誰一人として本当の意味で私のことを心配してくれる人はいなかった。ただ一度だけでも、自分のことを大切にしたかったんだ。

もう二度と、わずかな希望を見つけては愚かにも飛びついて、最後には絶望を味わうようなことはしたくない。

「昨日エレベーターの中で言ったことは、どれも怒りからではなく、本心からの言葉だった。もう私たちの間に何の接点も持ちたくないんだ」来栖季雄は一瞬止まり、決意を固めたかのように一字一句はっきりと言った。「だから、和香、東京に帰りなさい。ここで時間を無駄にしないで」