第640章 入籍(10)

来栖季雄は鈴木和香の「結婚しましょう」という言葉に頭が混乱していたが、和香の次の言葉を聞いた瞬間、唇の端が少し動き、表情が少し困ったように変わった。

「季雄さん、生まれてくる赤ちゃんをお父さんなしで育てるわけにはいかないでしょう……」

「和香……」来栖季雄は突然、まだ自分を説得しようとしている鈴木和香の言葉を遮った。

和香は口を閉じ、季雄を見つめながら、少し緊張した様子で「うん」と答えた。

「今、何て言った?」

「赤ちゃん……」

「その前の言葉だ」

「一生……」

「もっと前」

「私は嫁に行けなくて……」

「違う、もっと前だ」

和香は眉間にしわを寄せ、首を傾げながら少し考えて「結婚しましょう?」と言った。

和香が「この言葉ですか」と聞こうとした瞬間、季雄は突然手を上げ、彼女の耳元の散らかった髪を耳の後ろに掛け、穏やかで確信に満ちた声で「うん」と答えた。