第689章 携帯の中のメッセージ（39）

みんなはテレビを見ていたが、来栖季雄は多くの場合、吹き替えを使っていたため、彼だと気づく人はほとんどいなかった。

しかし、椎名佳樹は聞き分けることができた。彼の元々茫然としていた表情が、少し重々しくなった。

再生された会話記録は、誰かに手を加えられたようで、長い間のザーザーという雑音の後、突然、あの澄んだ美しい男性の声が響いた：「お前は人殺しだ！」

壇上に立っていた赤嶺絹代は、この言葉を聞いた瞬間、ようやくこの再生されている会話が何時のものか思い出した。彼女の顔色は一瞬にして紙のように青ざめ、いつもの優雅で落ち着いた様子とは打って変わって、壇上で動揺を隠せなくなった。

鈴木和香は落ち着いて席に座り、赤嶺絹代の今の様子を楽しむように眺めながら、かすかな笑みを浮かべた。

客席に座っている人々は、もはやオークションに注目する余裕もなく、長い間の沈黙の後に突然現れたこの言葉に、みな議論を始めた。

「人殺し？これはどういう意味だ？」

「誰が人殺しなんだ？椎名夫人のことか？」

「まさか...これは一体どういうことなんだ？」

ささやき声の中、赤嶺絹代の声が再びスピーカーから流れ出た。明らかに自信なさげな声で：「それはどういう意味？」

すぐ後に、あの耳に心地よい男性の声が響いた：「もし佳樹が知ったら、彼の母親が血まみれの手で、二ヶ月の胎児さえも見逃さなかったと。あなたはどんな目で母親である自分を見るだろうと思う？」

「あっ...」会場中からどよめきが起こり、それは30秒ほど続いた。

鈴木和香の隣に座っていた鈴木夫人までもが小さく声を上げた。

そして赤嶺絹代の声が再びスピーカーから流れた：「あなたは全て知っていたのね。」

「これはどういうことだ？」

「この言葉は、明らかに椎名夫人が認めたということだ。」

「彼女は本当に胎児を殺したのか？」

そのどよめきは次第に活発な議論へと変わり、声は徐々に大きくなっていった。

赤嶺絹代は壇上に立ったまま、顔色が青くなったり白くなったりと、表情の変化が目まぐるしかった。

彼女の隣に立っている司会者も、信じられない様子で彼女を見つめていた。

椎名佳樹の表情は穏やかに見えたが、その手は既に静かに拳を握りしめ、力が入りすぎて関節が浮き出ていた。