第713章 来栖・鈴木夫婦（1）

鈴木和香は馬場萌子が助手にあの面倒なことを話したのではないかと心配で、すぐに先に頭を傾け、来栖季雄の耳元で柔らかい声で言った。「何でもないわ、ただ昨夜あなたが私の電話を二回切ったから、ちょっと不機嫌になっただけよ」

実際には本当のことを言っていて、少し不満げな口調だったのに、なぜか鈴木和香の口から来栖季雄の心に届いたとき、それは甘えているように聞こえた。

来栖季雄は少し気を取られ、しばらくしてから、そういえば確かにそんなことがあったと急に思い出した。

今日彼女が彼の電話を切り続けていたのは、あのことが原因だったのか……

来栖季雄は顔を横に向け、目の前にある鈴木和香の横顔を見つめた。柔らかな輪郭、毛穴ひとつ見えないほど繊細な肌。昨夜電話で彼女が言った言葉が、耳元でまたゆっくりと響き、心が動いて、来栖季雄は少し穏やかに口を開いた。「和香、僕はとても嬉しいよ」

「昨夜、君が僕に言ってくれたことがね」

このショッピングモールのレストランには個室がなく、周りはざわめいていたが、来栖季雄がこの言葉を口にした瞬間、世界全体が一瞬静かになったかのようだった。

鈴木和香は自分の心が何か温かいもので満たされたように感じ、胸の中でゆらゆらと揺れて、とても非現実的な気分になった。「そんなに嬉しくて、夜中にアメリカから急いで帰ってきたの？」

「うん」来栖季雄は少しも隠さずに答えた。「本当はサプライズにしようと思ったんだけど、家に帰ったら人がいないだけじゃなく、家も上から下まで散らかっていて、足の踏み場もないほどだった」

鈴木和香はこれを聞いて「あっ」と声を上げ、散らかった自分の家を思い出して、顔が一気に真っ赤になった。

彼女は来栖季雄が金曜日に帰ってくる前に、家を元通りに片付ければいいと思っていたのに、まさか彼が突然早く帰ってくるとは……

ということは、彼は彼女が彼の書斎を探ったことを知っているのだろうか？

鈴木和香はまた小さく声を上げ、顔を横に向け、来栖季雄を見る目が少し逃げるような感じだった。「じゃあ……あなたは私が勝手にあなたの物を盗んだことも知っているの？」

「昨夜知ったよ」来栖季雄は鈴木和香の目を見つめ、その目は人の目を眩ませるほど輝いていた。

「えっ？」昨夜どうして知ったの？彼女は彼に言っていないし、彼はアメリカにいたはずなのに……