来栖季雄は助手と馬場萌子の手伝いで荷物を車に詰め込んだ後、二人に別れを告げ、鈴木和香を乗せて桜花苑へと車を走らせた。
鈴木和香が車に乗り込んだとき、助手席に花束が置かれているのを見つけた。彼女がちょうど来栖季雄にどこから手に入れたのか尋ねようとしたとき、鮮やかな花の間に挿まれたカードに気づいた。それを手に取ると、来栖季雄の簡潔で素直な三文字「和香へ」と書かれていた。
鈴木和香は嬉しそうに微笑むと、スマホを取り出し、花束を抱えて自撮りを始めた。ピースサインをしたり、唇を尖らせたり、可愛らしいポーズをとったりして、すっかり楽しんでいた。
横で真剣な表情で運転している来栖季雄は、バックミラー越しに彼女のそんな仕草を見て、表情は相変わらず冷静だったが、目の奥には明らかに浅い笑みが宿っていた。
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椎名佳樹は昨夜バーで意識を失うまで飲み、目を開けたとき、今がいつなのかわからないような感覚があった。バーテンダーが隣のソファで熟睡していた。おそらく昨夜、連絡先が見つからず、誰かに迎えに来てもらうことができなかったため、個室に留まることになったのだろう。
二日酔いで、椎名佳樹はひどい頭痛がした。彼はしばらくぼんやりと横になっていたが、やがてポケットを探り、スマホを見つけられなかった。そして赤嶺絹代からの電話が鬱陶しくて、車の中に放り込んでいたことを思い出した。
彼は痛む頭をさすりながらソファから立ち上がった。昨夜の寝姿勢が悪かったのか、体中がバラバラになったように痛かった。バーテンダーはぐっすり眠っていたので、椎名佳樹は彼を起こさず、財布から札束を取り出して彼の耳元に置き、立ち去った。
バーを出ると、椎名佳樹はすでに夕暮れ時だと気づいた。酔いは覚めていたが、まだ少し頭がぼんやりしていた。外に停まっている車の列を何周もぐるぐると回って、ようやく自分の車を見つけた。車に乗り込み、スマホを手に取ると、バッテリーが切れて自動的に電源が切れていることに気づいた。車載充電器に接続し、椎名佳樹はハンドルに額を乗せてしばらく目を閉じた。スマホの起動音が鳴り終わると、顔を上げ、画面に連続したメッセージと不在着信が表示されているのを見た。