第722章 来栖・鈴木夫婦(10)

来栖季雄は助手と馬場萌子の手伝いで荷物を車に詰め込んだ後、二人に別れを告げ、鈴木和香を乗せて桜花苑へと車を走らせた。

鈴木和香が車に乗り込んだとき、助手席に花束が置かれているのを見つけた。彼女がちょうど来栖季雄にどこから手に入れたのか尋ねようとしたとき、鮮やかな花の間に挿まれたカードに気づいた。それを手に取ると、来栖季雄の簡潔で素直な三文字「和香へ」と書かれていた。

鈴木和香は嬉しそうに微笑むと、スマホを取り出し、花束を抱えて自撮りを始めた。ピースサインをしたり、唇を尖らせたり、可愛らしいポーズをとったりして、すっかり楽しんでいた。

横で真剣な表情で運転している来栖季雄は、バックミラー越しに彼女のそんな仕草を見て、表情は相変わらず冷静だったが、目の奥には明らかに浅い笑みが宿っていた。