赤嶺絹代は無意識に足を止め、振り返って、壁の半分ほどの大きさのテレビ画面を見た。
画面の中で鈴木和香はマイクを持ち、皆に自己紹介をしていた。その後、彼女は穏やかにステージの中央に立ち、歌い始めた。
歌声は清らかで柔らかく、心地よく耳に響いた。
会場の審査員や観客だけでなく、テレビを見ていた二人の使用人までもが聞き入っていた。
鈴木和香の歌が終わると、審査員たちは明らかに感動し興奮していた。普段は批判的な彼らが、鈴木和香を絶賛していた。和香は優雅に舞台中央に立ち、目尻を下げて微笑んでいた。
その笑顔が、赤嶺絹代の目を刺すように痛めつけた。
彼女がいなければ、息子の椎名佳樹がこの母親を無視するはずがない。
彼女がいなければ、東京のビジネス界で自分が失脚することもなかった。かつて親しかった奥様たちが、今では皆自分から距離を置いている。