第755章 椎名佳樹の決断(14)

鈴木和香は本来、軽い調子で来栖季雄に「あなたが間違いを認めたなら、私が悲しむことなんてないでしょう?」と返そうとしていたが、彼の次の言葉を聞いた瞬間、喉に何かが詰まったような感覚になった。彼女が必死に心の奥底に押し込んでいた感情が、一気に引き出されてしまった。

「和香、こんなことを経験したら、誰だって心が痛むものだよ。君がそうやって無理に明るく振る舞おうとするほど、僕はもっと胸が痛むんだ。」

「僕は君の夫だよ。君が遠慮なく頼れる、信頼できる人間だ。君の喜びだけを分かち合って、悲しみを分かち合えないなんて、そんなの嫌だ。」

鈴木和香はどうにかして湧き上がってくる悲しみの感情を押し殺そうとしていたが、来栖季雄がそんな言葉を口にしたせいで、ついに我慢できなくなった涙がぽろぽろと頬を伝って落ちていった。