第774章 椎名佳樹の選択(33)

鈴木和香はパスワードを入力しようとした手を止め、身をかがめて紙を拾い始めた。

冬の終わりの風は強く、道路は南北に走っていたため、和香が三、四枚拾ったところで、風が吹いて残りの紙が椎名佳樹の立っている方向へ飛んでいった。

和香は追いかけながら身をかがめて拾い続け、最後の二枚の紙を追って車の前まで来たとき、紙はようやく止まった。彼女が拾おうとする前に、すでに誰かが先に身をかがめて拾ってくれていた。

和香は「ありがとう」と言って顔を上げると、表情が一瞬凍りついた。そして「佳樹兄」と声をかけた。

椎名佳樹は軽く頷き、拾った二枚の紙を和香に返そうとしたが、目の端に紙の上の文字が目に入り、眉間にしわを寄せた。彼はその紙を自分の前に持ってきて、真剣に一読した。紙を握る手に少し力が入り、顔を上げると、興奮と信じられないという表情で尋ねた。「和香、妊娠したの?」