司会者は口に出かかった言葉を飲み込み、笑いながら口を開いた。「松本さん、どうぞ」
松本雫は自分の前のマイクを少し口元に近づけ、咳払いをしてから話し始めた。「番組側が私に決勝戦のゲストとして機会を与えてくださったことを嬉しく思います。そこで皆さんに特別なサプライズを用意しました。決勝戦の終了まであと一人の出演者を残すのみですが、その前に番組の10分間をお借りして、このサプライズをお見せしたいと思います。よろしいでしょうか?」
司会者は明らかに松本雫のこの要求に戸惑った様子で、反射的に隣に座っている幹部の方を振り向いた。事前に相談していなかったため、幹部も松本雫の突然の要求に少し驚いた様子だった。
松本雫は幹部が反応する時間を全く与えず、マイクを持って立ち上がり、後ろに座っている観客に向かって手を振りながら続けた。「今夜お越しの皆さん、私が用意したこのサプライズを楽しみにしていますか?」
最初は客席から入り混じった「楽しみ」という声が上がったが、最後には一斉に「楽しみ」という声が響き渡った。その声は整然として大きく、会場全体を包み込むほどだった。
数人の幹部たちは元々集まって、これが一体どういうことなのかを小声で相談していたが、会場の観客の反応があまりにも強いため、松本雫に10分の時間を与えなければ抗議を引き起こしかねないと判断した。幹部たちは揃って頷き、スタッフが真ん中の幹部にマイクを渡した。幹部はマイクを取り、咳払いをしてから「よろしい」と一言言った。
司会者はすぐに手元のカードをしまい、臨機応変に対応して「最後の出場者が登場する前に、今夜の特別ゲスト、松本雫さん、松本女神が皆さんに用意したサプライズを見てみましょう」と言った。
司会者は手を上げ、松本雫に「どうぞ」というジェスチャーをした。
松本雫は落ち着いた様子で「ありがとうございます」と言ったが、ゲスト席から舞台に向かうことはなく、むしろ左右を見回して、ある方向に向かって「どうぞ」と声をかけた。
客席の観客は松本雫のこの行動に集団で固まり、会場全体が静まり返った。
約10秒後、最前列の左寄りの席から一人が立ち上がるのが見えた。背が高く、安定した足取りで舞台の一番左側に回り、階段を上って舞台に向かった。
舞台の大画面に、青いスーツを着た、ネクタイを美しく結んだハンサムな顔が映し出された。