時間が遅かったため、松本雫は鈴木和香にLINEを返信せず、携帯を持ってベッドから降り、上着を羽織って寝室を出た。リビングのバルコニーに椎名佳樹が一人寂しげに立ち、窓の外を見ながらタバコを吸っているのが見えた。
彼がそこにどれだけ長く立ち、何本のタバコを吸ったのかわからなかったが、バルコニーからタバコの匂いが部屋に漂い、少し息苦しくなっていた。
松本雫は換気扇をつけ、ゆっくりと彼に近づいた。
椎名佳樹は片手にタバコを挟み、うつむいて携帯を見入っていた。あまりにも集中していたため、松本雫がバルコニーに来ても全く気づかなかった。
携帯からは来栖季雄の声が聞こえてきた。松本雫にはそれが昨日の午後の来栖季雄のインタビューだとわかった。
椎名佳樹は薄い寝間着一枚だけを着ていた。バルコニーの温度は零度前後で、震えるほど寒かった。松本雫は仕方なく寝室に戻り、毛布を取って戻り、椎名佳樹の肩にかけた。