第800章 あの年の恋文(10)

来栖季雄くんへ:

突然この手紙を書いて申し訳ありません。迷惑をかけないことを願っています。

「迷惑」の後には可愛らしい笑顔のマークが付いていて、それを見た来栖季雄の目元にも思わず笑みが浮かんだ。

「世界の中の一人一人は、誰かのために存在すると言われています。私の存在は、あなたのためにあるのだと思います。」

来栖季雄はこの言葉を目にした瞬間、表情が一瞬凝固した。この言葉はどこかで聞いたことがあるような気がする。しかし、すぐには思い出せなかった。

来栖季雄は眉間にしわを寄せながら、読み進めた。

「私には大きな夢はありません。ただあなたと一緒にいられることを願っているだけです。」

「私は文才があるわけではありません。ただ言いたいのは、50年後も今のようにあなたを愛していたいということです。」

「この人生で、もうあなたのように深く愛する人は現れないでしょう。」

来栖季雄がここまで読んだとき、淡いピンク色の便箋を見つめる目には、少し驚きの色が浮かんでいた。

これらの言葉は、絶対にどこかで聞いたことがある……

「あなたは知らないでしょうが、あなたに出会った日から、私のすることはすべてあなたに近づくためでした。」

「私はたくさんの夢を見てきました。どの夢にもあなたがいました。たくさんの妄想をしてきました。毎回あなたと一緒にいることを想像していました。たくさんの願い事をしてきました。どの願いもあなたに私を愛してほしいというものでした。」

ここまで読んで、来栖季雄はようやく思い出した。この手紙の内容は、かつて鈴木夏美が彼に渡した録音ペンの中で、鈴木和香が椎名佳樹に言った言葉だったのだ。

これはいったいどういうことなのか?

彼女が椎名佳樹に言った愛の言葉が、なぜ彼宛ての手紙に書かれているのか?

「世界にとってあなたはたった一人の人間かもしれませんが、私にとってあなたは世界そのものです。」

「生きている限り、私はあなただけを愛します。」

最後には薄い青色の蛍光ペンで書かれた一文があった:最も美しいのは雨の日ではなく、あなたと一緒に軒下で雨宿りしたあの時間です。

署名:鈴木和香

日付は5年前の日付だった。

つまり、この手紙は鈴木和香が5年前の初夏に彼に書いたものなのか?