第826章 家族に会う（6）

彼女は車のエンジンをかけず、穏やかな表情でフロントガラスの前方をしばらく見つめていた。そして、自分のバッグを開け、中から先ほどの検査結果を取り出した。開いたジッパーの隙間から、中に2箱の葉酸が入っているのが見えた。

彼女の生理はいつも規則正しかったが、今回は1週間経っても来ない。彼女の心の中に薄々と不吉な予感が浮かび、今日の午後は予定がなく、椎名佳樹が会社にいる間に、一人でこっそり病院に検査に行った。結果は予感通りで、彼女は妊娠していた。

妊娠1ヶ月、鈴木和香のお腹の胎児より1ヶ月小さい。椎名佳樹の子供、つまり彼女のお腹の中の子供は、鈴木和香のお腹の中の子供を兄さんか姉さんと呼ぶことになる。

彼女と椎名佳樹がそういうことをするときは、いつも避妊対策をしていた。

医学的にはコンドームが100%避妊できるわけではないと言われているが、少なくとも彼女と彼は7年間関係を持ち続けてきたが、一度も妊娠したことはなかった。しかし、今回は思いがけない事態が起きた。

正直に言えば、彼女はこの子供の誕生を拒絶してはいなかった。彼女はもう若くない。かつての彼女は貧困から抜け出すために必死に努力し奮闘してきた。しかし今は貧しくない。彼女はもうこの冷たい東京都で一人で生き続けたくなかった。ここに家庭を持ち、かわいい子供を育て、その成長を見守りながら、普通の女性が送るような温かく安らかな日々を過ごしたいと思っていた。

しかし、この子供の父親は、100万円で彼女を7年間買い、もう1週間で8年目に入るというのに、彼女と結婚する気配は微塵もなかった。

松本雫はここまで考えると、頭がうずき始め、目に悲しみの色が広がった。妊娠検査結果を見つめながら、いつも自立して強かった彼女の目に、途方に暮れた表情が浮かんだ。

しばらくして、松本雫はようやく手に持っていた検査結果をバッグに無造作に詰め込み、エンジンをかけ、ゆっくりと車を走らせた。

彼女は目的もなく車の流れに沿って運転した。前の車が止まれば彼女も止まり、前の車が進めば彼女も進んだ。