第827章 家族に会う（7）

松本雫は眉間にしわを寄せた。

休憩室に誰かいるの？

彼女はソファに置こうとしていたバッグを再び手に取り、ふかふかのカーペットを踏みしめながら休憩室へと向かった。近づくにつれ、中から女性の声がはっきりと聞こえてきた。「佳樹兄、約束したじゃない。今日は仕事が終わったら映画に連れて行ってくれるって。どうして急に変更するの？」

松本雫の足は突然その場に止まった。バッグの持ち手を握る手に、思わず力が入った。

休憩室のドアは半開きになっていた。ドアからある程度距離があったものの、視力の良い彼女には、若くて美しい女の子がベッドに横たわり、椎名佳樹の腕をつかんで揺さぶっている様子がはっきりと見えた。

椎名佳樹は疲れているようで、目を閉じたまま彼女に応じていなかった。

若い女の子は唇を尖らせた。「佳樹兄、わざわざここまで会いに来たのに、今まで一言も話してくれないじゃない。ああああ...」

女の子の甲高い声と共に、彼女は椎名佳樹の腕をさらに強く揺さぶった。

眠れなくなった椎名佳樹は目を開けた。「千恵子、やめてくれ。本当に疲れているんだ。会社は階下でイベントをやっているだろう？先に行って楽しんでくれないか？」

「いやよ！」千恵子と呼ばれた女の子は考えもせずに首を振って拒否し、すぐに椎名佳樹の上に覆いかぶさり、彼の首をきつく抱きしめて言った。「佳樹兄、来栖季雄と和香姉はもう結婚するのに、私たちはいつ結婚式を挙げるの？」

松本雫はこの言葉を聞いた瞬間、足の裏から全身に広がる冷たさを感じた。その冷気は彼女の熱く燃えていた心まで凍りつかせた。

彼女は目を離さず中の二人を見つめ、物音一つ立てずに静かに立っていた。約30秒ほど経って、椎名佳樹の低い声が聞こえてきた。「大学を卒業してからにしよう。いい子だから、少し寝かせてくれ。」

「佳樹兄、私は教会で結婚式を挙げたいの。それに和香姉の結婚式会場を見たけど、とても素敵だった。その時は、あなたも私にあんな素敵な会場を用意してね...」

松本雫はここまで聞いて、ようやく反応した。まず目を伏せ、そして素早く身を翻し、軽やかな足取りで急いでその場を離れた。

松本雫は自分がどうやって階下に降りたのか覚えていなかった。気がついた時には、すでに車の中に座っていた。