第853章 エピローグ(13)

これも鈴木夏美が彼に教えたことなのだろうか?

しかし、今の鈴木和香の心の中には、さっきまでの反抗心などどこにもなかった。

最初は皆がただふざけて冗談を言い合っていただけなのに、最後には胸の中が温かい感情でいっぱいになっていた。

本来ならもう食事の時間だったが、司会者のアシスタントは二人の会話を遮って注意するどころか、こっそりと舞台を降り、後ろにいるスタッフに何か言って、また舞台に戻ってきた。

和香は来栖季雄の端正な顔立ちをじっと見つめ、目に熱が宿り、明らかに震える声で言った。「誰だか知らないけど、高校生の時に私に白鳥ケーキ屋のケーキを買うために、昼間は学校に行って、夜はバイトしてた人がいるわね」

和香の言葉が終わると同時に、それまで流れていた「結婚行進曲」の音楽が止まり、代わりに一曲の歌が流れ始めた。

この歌は、最近人気の映画のテーマ曲で、多くの人が聴いたことがあるものだった。

しかし、歌声が響き始めたのは原曲の歌手ではなく、和香の声だった。

「あの頃の傷だらけの机をよく思い出す、ぼんやりしている時はいつもあなたの横顔を見ていた、あなたは知らないかもしれない、あの頃の小さな私が、若い日の秘密を心の片隅に隠していたことを」

これは椎名佳樹が彼女に教えたことなのだろうか?

季雄は佳樹を一瞥した。佳樹は顔をそらし、隣にいる松本雫の方を見た。

女性の歌声が終わると、今度は男性の声に変わった。その場にいる全員が、それが季雄の声だとわかった。「交差点であなたを待っていたのは僕と僕の自転車、少し冷たい夕暮れにはあなたが僕と一緒にいた、夕焼けがどんなに美しくても、あなたの瞳の色には及ばない、さよならも言わずに別れはいつも沈黙の中で」

和香は今回、季雄が口を開くのを待たずに、歌声の中で一つ一つの出来事を数え始めた。「それから、誰だか知らないけど、私が病気になった時に保健室に連れて行ってくれて、そのまま午後ずっと付き添ってくれて、ほら授業をサボったせいで先生に一日中立たされた人もいたわね」

バックグラウンドの歌声は、再び和香の歌声に変わった。「あなたも時々私のことを思い出すのかしら、私がよく昔のことを静かに語るように、私たちは春風や秋雨の中で何でも話し合ったのに、春が去り秋が来る間に連絡を失ってしまった」