鈴木知得留は目的地に到着した。
ブラックファイブクラブは会員制で、上流階級の若者たちが集まる場所だった。彼女は冬木空がこんな場所を好むとは思っていなかった。
スタッフの案内で、彼女は豪華なスイートルームに入った。部屋は少し暗く、大きなビリヤード台があり、冬木空が身を屈めてプレイしていた。優雅な姿勢で、落ち着き払っていて、彼女の到着に目もくれず、相変わらず自然にキューを振っていた。
傍らでキューを持ちワイングラスを手にしていた別の男が、からかうような声で言った。「空、君の婚約者が来たよ」
冬木空は長い指でキューを少し強く握り、冷ややかに言った。「誰の婚約者かわからないがな」
その言葉と共に、一打ちで二つの球が入り、ゲームは終了した。
冬木空は体を起こし、キューを脇に置き、優雅にワイングラスを持って一口飲み、鈴木知得留を見て言った。「招待状を持ってきたのか?」
「昨夜、私は田村厚のプロポーズを断りました。それがメディアにリークされたのは、誰かが意図的にやったに違いありません」鈴木知得留は率直に言い、冬木空の隣の男を見て続けた。「北村家の報道で、この記事を書いた人を調べていただけませんか?」
北村系メディア会社の御曹司である北村忠は、冬木空と幼なじみで、一緒に留学し、帰国後も家業を継ぐのを待っている仲だった。二人の関係は周知の事実で、冬木空が協力すれば、黒幕を突き止めるのは難しくないはずだった。
「空、君の婚約者は遠慮がないね」北村忠は軽く笑った。
冬木空は応答せず、鈴木知得留の味方をする言葉も一切なかった。距離を保ったまま鈴木知得留を見つめ、彼女の言葉を...無視した。
鈴木知得留は歯を食いしばった。
彼女は前に進み、冬木空の目の前に立った。お互いがとても近い距離で。
冬木空は眉をひそめ、人との近接を好まないようだった。
そしてその瞬間、鈴木知得留は突然つま先立ちになった。
世界が静止したかのようだった。
北村忠は傍らで目を丸くして見ていた。
冬木空もその瞬間は何の反応も示さず、まるで石になったかのようだった。
最初から最後まで、冬木空は積極的になることはなかったが...意外にも拒否もしなかった。
離れた後、鈴木知得留の顔は真っ赤だった。
こんなに積極的になるのは初めてだった。