ブラックファイブクラブの個室。
鈴木知得留が話し終えると、冬木空と北村忠は黙って彼女を見つめていた。その視線に知得留は少し居心地が悪くなり、普段の調子を取り戻そうと努めた。「私の話は以上です」
冬木空の口角が少し上がったように見え、「ああ」と返事をした。
「何か考えや意見はありませんか?」と知得留は尋ねた。
「ない」
「じゃあ、今のあなたの態度はどういう意味なんですか?」知得留は冬木空が全く理解できなかった。
「お前の芝居を見守るだけだ」と冬木空は答えた。
知得留は時々、冬木空との会話で本当に頭にくることがあった。
「じゃあ、私は先に失礼します」
どうせ、二人には話すことなどない。
「待て」と冬木空が突然彼女を呼び止めた。
その瞬間、知得留は少し嬉しくなった。
「車を持ってきていない。送ってくれ」と冬木空は率直に言った。
知得留は目を白黒させた。
彼女は頷いて、先に歩き出した。
冬木空は後ろについて歩いた。
知得留が個室のドアを開けると、ちょうどドアの前で従業員が飲み物を運んでこようとしていて、知得留は危うくぶつかりそうになった。その瞬間、本能的に大きく後ろに下がったが、体勢を崩しかけた。後ろの人が支えてくれると思ったが、後ろの人は彼女よりもさらに遠くに下がっていた。
彼女は眉をひそめて冬木空を見た。「支えてくれてもよかったでしょう?」
冬木空は真面目な顔で言った。「私の潔白を守らなければならない」
「……」何が潔白よ。
上から下まで、左から右まで、彼女の何を見てないというの?!
冬木空は知得留の視線に少し動揺し、冷たい声で言った。「まだ行かないのか?」
知得留は言葉もなく出て行った。
北村忠は二人の前後する姿を見て、意味深な笑みを浮かべた。
知得留の車の中で、知得留は尋ねた。「どちらまで?」
「家だ」
そして、二人とも何も話さなくなった。
窒息しそうなほど静かな空間で、知得留は深く息を吸って言った。「田村厚に女性を送る時は、手伝ってもらいたいんです。私が思いつく最適な場所はフォーシーズンインターナショナルホテル、つまりあなたの家の事業です」
「ああ」冬木空は頷き、知得留が何を求めているのか説明する必要もないようだった。
知得留もそれ以上は何も言わず、冬木空を送り届けた後、鈴木邸に戻った。