ホールの中で、根岸史子は優しい声で一言一句丁寧に言った。「私は思うのですが、こうなった以上、穏便に婚約を解消するのがよいのではないでしょうか。結婚は本来二人の問題ですし、今は新しい時代です。若い人が自由に恋愛するのはごく普通のことです。知得留が成長過程で他の人を好きになったことを素直に認め、冬木家に説明して婚約を解消しましょう」
「そんなことはできません!」秋山玲奈は言った。「鈴木家の評判はどうなるのですか?」
「今でも評判は落ちています。どう説明しようと、ニュースを抑えようと、みんな知得留と田村厚が付き合っていたと思い込んでいます。このまま冬木家と対立を続けて関係を悪化させるよりも、知得留と田村厚を認めてあげた方がいい。私たちが冬木家に謝罪に行けば、冬木家もどんなに怒っていても私たちの謝罪を受け入れないわけにはいかないでしょう。どのみち、冬木家も鈴木家の面子は立ててくれるはずです」と根岸史子は言い、この問題を真剣に考えているように見えた。