「姉さん、信じてないわけじゃないんだ」車内で、鈴木友道が口を開いた。
鈴木知得留は真剣に運転を続けていた。
「ただ、最近なぜこんなにも家で色々なことが起きているのか理解できないんだ」鈴木友道は窓の外の景色を眺めながら呟いた。「先日のスキャンダルも大騒ぎになったよね。僕が海外にいた時も噂を聞いたよ。今やっと軌道に乗ってきて、姉さんと冬木空が一緒になるのは良いと思う。正直に言うと、僕はずっと田村厚のことを見下していたんだ。なぜ姉さんが昔、彼のことを好きになったのか分からないよ」
昔なぜ好きになったのか?
鈴木知得留は思い返してみたが、理由が分からなかった。
田村厚はイケメンとは言えず、顔立ちは整っているという程度で、決して印象的ではなかった。大学時代、彼女は文学部で、彼は金融学部で、学部間の交流会で知り合った。最初は田村厚に全く興味がなかったが、後に二人とも学生会に所属し、田村厚は彼女に親切で、何でも手伝ってくれた。周りの人が二人は付き合っているのではないかと冗談を言い始め、そのうちに本当になってしまった。
鈴木知得留はその時、婚約があったにもかかわらず、冬木空という人物については名前しか知らなかった。加えて、冬木空は事故で体調を崩していると聞いていたので、彼と結婚するつもりはなく、自然と婚約のことは気にせず、田村厚に心を向けていった。
心の中では田村厚の条件が自分には釣り合わないことは分かっていたが、彼は本当に優しかった。彼女が学校の外の肉まんが好きだと一言言っただけで、真冬の朝に並んで買い、寮の下で彼女が起きるのを待っていた。体は凍えていたのに、肉まんは服の中で温かいままだった。
そんな感動的な出来事は他にもたくさんあった。
あの頃は、世界で一番自分のことを愛してくれていると信じていた。そして彼女も自然とその優しさに心を動かされ、田村厚に一途だった。むしろ田村厚が引け目を感じないように、上流社会の人々との付き合いも避け、田村厚がどんな発展を遂げようとも、彼と仲睦まじく一生を過ごすつもりでいた。
しかし……
鈴木知得留は過去を思い出すと本当に歯ぎしりするほど憎かった。
彼女はハンドルを強く握り締め、感情を抑えようと努めていた。
その時。
鈴木友道が突然叫んだ。「姉さん、気をつけて!」