斎藤邸の正門の外。
斎藤咲子に傘を差し掛けて話しかけている男性は秋山悟で、斎藤祐の私設弁護士だった。
斎藤咲子は秋山悟について、邸宅へと向かった。
邸宅の入り口で、村上紀文は秋山悟を見て、それなりに敬意を示して「秋山おじさん」と呼んだ。
秋山悟と斎藤祐は数十年来の古い友人だった。
「ああ。お母さんはいるかい?」秋山悟が尋ねた。
「はい」
「ちょうどいい。斎藤さんの遺言を、みなさんの前で公表したいから、お母さんを斎藤さんの書斎に来てもらえるかな」
「分かりました」村上紀文は頷き、斎藤咲子を一瞥した。
斎藤咲子は誰にも視線を向けなかった。
秋山悟は斎藤咲子を連れて2階へ向かいながら言った。「咲子、全身濡れているようだね。シャワーを浴びてから来たらどうだい。遺言の公表はそれほど急ぐことでもないから」