第98章 遺言、逆転!

斎藤邸の正門の外。

斎藤咲子に傘を差し掛けて話しかけている男性は秋山悟で、斎藤祐の私設弁護士だった。

斎藤咲子は秋山悟について、邸宅へと向かった。

邸宅の入り口で、村上紀文は秋山悟を見て、それなりに敬意を示して「秋山おじさん」と呼んだ。

秋山悟と斎藤祐は数十年来の古い友人だった。

「ああ。お母さんはいるかい?」秋山悟が尋ねた。

「はい」

「ちょうどいい。斎藤さんの遺言を、みなさんの前で公表したいから、お母さんを斎藤さんの書斎に来てもらえるかな」

「分かりました」村上紀文は頷き、斎藤咲子を一瞥した。

斎藤咲子は誰にも視線を向けなかった。

秋山悟は斎藤咲子を連れて2階へ向かいながら言った。「咲子、全身濡れているようだね。シャワーを浴びてから来たらどうだい。遺言の公表はそれほど急ぐことでもないから」

斎藤咲子は秋山悟を見つめた。

彼女は他人の好意に慣れていないようだった。

秋山悟は軽く微笑んで、「行っておいで」と言った。

斎藤咲子は頷いて、その場を離れた。

秋山悟は斎藤咲子を見送りながら、無念そうに首を振った。

斎藤咲子は自室に戻った。幸い、彼女の服はまだそこにあった。父が亡くなったばかりで、渡辺菖蒲はまだ彼女の持ち物を処分する時間がなかったのだろう。

彼女は少し熱めのお湯で、寒気を取ろうとしばらく湯船に浸かっていた。

彼女はバスローブを着て浴室から出てきた。

部屋には村上紀文が、彼女のベッドの端に座っていた。

斎藤咲子は思わずバスローブを強く握りしめ、彼を見つめた。

「みんな待っているぞ」村上紀文は彼女を一瞥した。

今の彼女の顔色は普段とは大きく違っていた。頬は紅潮し、珍しく健康的に見えた。

おそらく熱いお湯のせいだろう。

「分かっています」斎藤咲子は淡々と答えた。

村上紀文は立ち上がって部屋を出て行った。

斎藤咲子はバスローブを強く握りしめていた手の力を少し緩めた。

彼女は深く息を吸い、乾いた快適な服に着替え、髪を半乾きまで乾かしてから、書斎へ向かった。

書斎には当然、渡辺菖蒲がいて、彼女が現れると不機嫌な表情を見せた。「誰様のつもりだ、みんなをこんなに待たせて」

斎藤咲子は何も言わなかった。

むしろ秋山悟が口を開いた。「咲子は全身濡れていたから、私が先にシャワーを浴びるように言ったんです」