第103章 濡れ衣を着せられる

鈴木知得留がお粥を持って商業管理ビルの入り口に入ろうとした時、ちょうど出て行こうとしていた楠木観月と出くわした。

楠木観月は鈴木知得留の手にあるものを一瞥し、さらに入り口に停まっている黒い車を見やって、表情を曇らせた。「彼氏が持ってきたの?」

「あ、はい」鈴木知得留は頷いた。

楠木観月は冷たく言った。「家柄を背景に好き勝手するのはやめなさい」

鈴木知得留は眉をひそめた。

正直、普段は楠木観月に対して敬意を払っていたし、部下に対する異常なまでの厳しさも、彼女の家庭環境から来る向上心だと理解できていた。でも今回は、確かに不愉快だった。

反論しようとした。

楠木観月は彼女に話す機会すら与えず、そのまま立ち去った。

鈴木知得留は彼女の背中を見つめた。

胸に溜まった息を、結局飲み込むしかなかった。

オフィスに戻ると、楠木観月が帰ったことで皆少しリラックスしていた。みんな立ち上がって動き回り、コーヒーを入れたり、お菓子を食べたりしていた。

鈴木知得留も自分の席で「愛情たっぷりの夕食」を食べた。

味は、実際悪くなかった。

「彼氏が持ってきてくれたの?」木村章は鈴木知得留と一緒に入社した新入社員で、同じ23歳だった。

鈴木知得留は頷いた。

「幸せだねぇ。私たち独身には...」木村章は羨ましそうに言った。

鈴木知得留は微笑んで、多くを語らなかった。

幸せは自分だけで味わえばいい。

「さっき楠木部長に会った?」木村章は尋ねた。

「会ったわ」しかも不愉快だった。

「帰るところだったんでしょ」

「たぶんね」

「私たちいつまで残業するんだろう。新人の意見なんて通らないのに」木村章は不満げに言った。

鈴木知得留は返事をしなかった。

「そういえば、聞いた?楠木部長、旦那さんと仲悪いらしいよ」木村章は鈴木知得留の耳元で囁いた。「だから全精力を仕事に注ぎ込んでるんだって」

聞いたことはなかったが、想像はできた。

仲が良ければ、ここまで仕事に没頭することもないだろう。

「誰か楠木部長を手なずけてくれる男性が現れないかなぁ。そうしたら私たちもこんなに苦労しないのに...」木村章は天を仰いで祈るように言った。

鈴木知得留は微笑んだ。

新人だからこそ、上司の悪口を言う勇気があるのだろう。他のベテランは誰も批判する勇気がない。