鈴木知得留がお粥を持って商業管理ビルの入り口に入ろうとした時、ちょうど出て行こうとしていた楠木観月と出くわした。
楠木観月は鈴木知得留の手にあるものを一瞥し、さらに入り口に停まっている黒い車を見やって、表情を曇らせた。「彼氏が持ってきたの?」
「あ、はい」鈴木知得留は頷いた。
楠木観月は冷たく言った。「家柄を背景に好き勝手するのはやめなさい」
鈴木知得留は眉をひそめた。
正直、普段は楠木観月に対して敬意を払っていたし、部下に対する異常なまでの厳しさも、彼女の家庭環境から来る向上心だと理解できていた。でも今回は、確かに不愉快だった。
反論しようとした。
楠木観月は彼女に話す機会すら与えず、そのまま立ち去った。
鈴木知得留は彼女の背中を見つめた。
胸に溜まった息を、結局飲み込むしかなかった。