豪華客船の上で。
鈴木知得留は携帯を手に持ち、冬木空からの返事を期待していなかった。
彼女は自然に話題を切り出した。「今回の北洋国訪問で本当に多くのことを学びました。北洋国が経済大国になったのも納得です。彼らの視野と先見性は一般の人とは全く違い、彼らが考えていることは、私たちが数年後にようやく思いつくようなことばかりです。」
「確かにそうだな」冬木空は同意した。
「あなたも来るべきでしたよ」
「今後機会はいくらでもある」
「嘘でしょ」鈴木知得留は冷たく言い返した。
相手は反論しなかった。
鈴木知得留は手すりに寄りかかり、つぶやいた。「冬木空、あなたのプロポーズを思い出したわ」
「ああ」
「今、客船の上にいると、なんだか感傷的になってしまって」
「分かる」
「知ってる?あの時、すごく心臓がドキドキして。もう二度と心が揺れることはないと思っていたのに」