豪華客船の上で。
鈴木知得留は船の手すりに寄りかかり、生臭い風を感じていた。
客船は海面をゆっくりと進み、海岸から離れるにつれて周りは暗くなり、見渡す限り何もない。
鈴木知得留は遠くで後を追ってくる小型スピードボートに目を向けた。
それは道明寺華だった。
楠木観月の意図的な行動を考慮して、鈴木知得留も不必要なトラブルを避けたかった。特に第一グループの前で、日本国の品位を落としたくなかった。それに父親の鈴木山の名誉も背負っているので、決して父親の顔に泥を塗るわけにはいかなかった。
道明寺華が追跡してくるのを見ていると、少し安心した。
この旅は人が多く騒がしかったが、結局は平穏だった。
しかし、彼女にはよくわかっていた。嵐の前は静かなものだと。
出発が近づくほど、安全ではなくなる。
彼女は道明寺華を見つめ続けた。
客船に乗る時、鈴木知得留は約束した。必ず道明寺華から見える場所にいると。もし5分間姿が見えなかったら必ず電話をし、応答がなければ何も考えずに船に乗り込むように。
明らかに、今の道明寺華は彼女を見ており、一定の距離を保っていた。
「鈴木課長」木村章がワイングラスを持って、突然近づいてきた。
今回の出張で鈴木知得留がリーダーに任命されたのは、このプロジェクトが彼女の発案だったことと、高橋透が新人に重要な任務を任せたいと考えたからで、自然と彼女が視察プロジェクトの全権を任されることになった。
「うん」鈴木知得留は木村章を見た。
「今回、課長についてきて本当によかったです」木村章は明るく笑った。「生まれて初めてこんな豪華な場所に来て、こんな素敵なドレスを着ました。以前から商業管理機構に入れば出世できると聞いていましたが、入った時も、働いてからもそう感じませんでしたが、今になってやっとわかりました」
鈴木知得留は笑って「それならしっかり働きなさい」と言った。
「これからもし課長が私の上司になったら、絶対に…」木村章は興奮して話し始めた。
「シーッ」鈴木知得留は彼女を制止した。「壁に耳あり。それに、そんなことは誰にもわからないから、軽々しく言わないで。前回の教訓を忘れたの?」
「わかってます」木村章は意味深な笑みを浮かべた。
鈴木知得留は軽く笑って何も言わなかった。