斎藤咲子は頭がくらくらしていた。
彼女は目を閉じていた。
その瞬間、ただ厚みのある抱擁を感じ、彼女は強く抱きしめられた。
彼女は抵抗しなかった。
そうしてその人に、かがんで腰を下ろして抱き上げられた。
今まで経験したことのないお姫様抱っこ。
村上紀文は斎藤咲子をベッドに寝かせた。
斎藤咲子は顔を真っ赤にして、おそらく酔いのせいで、この時目を閉じていた。
村上紀文は彼女をじっと見つめていた。
そして。
彼はベッドの布団を引き寄せ、彼女にかけてやり、立ち去ろうとした。
手が、突然誰かに掴まれた。
村上紀文の胸が高鳴った。
それは...制御できない心臓の鼓動だった。
彼の喉が波打ち、ずっと抑え込もうとしていた。
「そばにいて」と斎藤咲子は言った。
声は、とても小さく優しかった。
斎藤咲子がいつ彼にこんなに優しく接したのか、もう覚えていなかった。
彼女は彼をそれほど憎んでいた、それほど憎んでいた。
彼は再び彼女のベッドの端に座った。
斎藤咲子の手は彼を離さず、手のひらには、彼女の温もりが残っていた。
斎藤咲子はおそらく寝心地が悪かったのか、体をよじり、布団を蹴り飛ばした。
村上紀文はそんな彼女が大の字で寝ているのをただ見つめていた。
彼は仕方なく、もう片方の手で再び布団をかけてやった。
かけたとたん、斎藤咲子は蹴り飛ばす。
かけては蹴り飛ばし。
まるで終わりがないようだった。
「咲子」村上紀文は彼女の耳元で、「言うことを聞いて」
斎藤咲子はぼんやりと目を開けた。
その瞬間、近距離にいる村上紀文と、目が合った。
目が合った。
斎藤咲子の目はうっとりとして、うっとりと目の前の人を見つめ、誰なのか分からないようだった。
分かっていたら、きっとこんなに平静ではいられなかっただろう。
村上紀文の薄い唇が動いた。
夜は、深く温かかった。
「根岸峰尾...ありがとう。私のそばにいてくれてありがとう」
「...」
世界中が、まるで突然静まり返ったかのようだった。
その瞬間まるで霜が降りたかのようだった。
村上紀文は斎藤咲子の部屋を出た、出る時にドアを強く閉めた。
そしてベッドに横たわっている斎藤咲子は、ドアの方向をじっと見つめていた。
彼女の口元に冷たい笑みが浮かんだ。
...
翌日。