第170章 完全に違う自分に変わることを強いられて(1更)

斎藤咲子は頭がくらくらしていた。

彼女は目を閉じていた。

その瞬間、ただ厚みのある抱擁を感じ、彼女は強く抱きしめられた。

彼女は抵抗しなかった。

そうしてその人に、かがんで腰を下ろして抱き上げられた。

今まで経験したことのないお姫様抱っこ。

村上紀文は斎藤咲子をベッドに寝かせた。

斎藤咲子は顔を真っ赤にして、おそらく酔いのせいで、この時目を閉じていた。

村上紀文は彼女をじっと見つめていた。

そして。

彼はベッドの布団を引き寄せ、彼女にかけてやり、立ち去ろうとした。

手が、突然誰かに掴まれた。

村上紀文の胸が高鳴った。

それは...制御できない心臓の鼓動だった。

彼の喉が波打ち、ずっと抑え込もうとしていた。

「そばにいて」と斎藤咲子は言った。

声は、とても小さく優しかった。

斎藤咲子がいつ彼にこんなに優しく接したのか、もう覚えていなかった。

彼女は彼をそれほど憎んでいた、それほど憎んでいた。

彼は再び彼女のベッドの端に座った。

斎藤咲子の手は彼を離さず、手のひらには、彼女の温もりが残っていた。

斎藤咲子はおそらく寝心地が悪かったのか、体をよじり、布団を蹴り飛ばした。

村上紀文はそんな彼女が大の字で寝ているのをただ見つめていた。

彼は仕方なく、もう片方の手で再び布団をかけてやった。

かけたとたん、斎藤咲子は蹴り飛ばす。

かけては蹴り飛ばし。

まるで終わりがないようだった。

「咲子」村上紀文は彼女の耳元で、「言うことを聞いて」

斎藤咲子はぼんやりと目を開けた。

その瞬間、近距離にいる村上紀文と、目が合った。

目が合った。

斎藤咲子の目はうっとりとして、うっとりと目の前の人を見つめ、誰なのか分からないようだった。

分かっていたら、きっとこんなに平静ではいられなかっただろう。

村上紀文の薄い唇が動いた。

夜は、深く温かかった。

「根岸峰尾...ありがとう。私のそばにいてくれてありがとう」

「...」

世界中が、まるで突然静まり返ったかのようだった。

その瞬間まるで霜が降りたかのようだった。

村上紀文は斎藤咲子の部屋を出た、出る時にドアを強く閉めた。

そしてベッドに横たわっている斎藤咲子は、ドアの方向をじっと見つめていた。

彼女の口元に冷たい笑みが浮かんだ。

...

翌日。