斎藤咲子の部屋の前。
閉ざされたドアの前に、村上紀文は長い間立ち尽くしていた。
彼はノックもせず、かといって立ち去ることもなかった。
斎藤咲子は、お風呂を済ませ、根岸峰尾が入浴している間に、外の空気を吸いに行こうとしていた。
ドアを開けると、村上紀文がそこに立っているのが見えた。
その突然の出来事に、村上紀文は一瞬呆然としてしまった。
呆然と、まっすぐに斎藤咲子を見つめていた。
斎藤咲子は、村上紀文がこんな風に自分を見つめたのがいつ以来なのか、もう覚えていなかった。
思えば、あの頃の眼差しさえも、嘘に満ちていたのだろう。
彼女の表情は冷ややかだった。
心も冷めきっていた。
彼に対して、憎しみ以外何も感じることができなかった。
以前は我慢できていたが、今はもう我慢する気も失せていた。