暗い斎藤邸。
村上紀文は薬箱の中から胃薬を探り当てた。
胃薬はほとんど彼が飲んでいたので、何錠か減っているのがよく分かった。
振り向いて口を開こうとした時。
斎藤咲子はすでに去っていた。
村上紀文は唇を軽く噛み、薬を取り出し、水で飲み込んだ。
胃薬はすぐには効かないが、徐々に症状が和らいでいく。
一歩一歩部屋に戻り、ベッドに横たわった。
天井を見つめながら、なぜか呆然としていた。
いつか、斎藤咲子も自分のようになってしまうのだろうか!
翌日。
村上紀文が起床した時、斎藤咲子はすでに根岸峰尾を連れて邸を出ていた。
昨夜は結局なかなか眠れなかった。胃の痛みのせいなのか、考え事が多すぎたのか分からないが、幸い今朝は胃の具合もよくなり、全体的に少し元気になっていた。
階下に降りる。
リビングでは母が朝食を取っていた。
息子を見かけると、すぐに声をかけた。「紀文、こっちに来て何か食べなさい。」
村上紀文は断らなかった。
胃痛は決して良い経験ではないのだから。
母の向かいに座る。
渡辺菖蒲は息子に対して非常に熱心で、おかゆを よそってあげたり、卵の殻を剥いてあげたりした。
村上紀文はそれを静かに受け入れていた。
食事を終え、口元を拭って立ち上がろうとする。
「紀文、どこへ行くの?」渡辺菖蒲が尋ねた。
「会社だ。」
「まあ、そんなに無理しないで、しばらく休んだら?」渡辺菖蒲が言った。
村上紀文は率直に言った。「株式はあなたのもので、取締役会メンバーもあなたですが、斎藤グループの総経理は私です。私は私のやり方で仕事を続けます。そして...」
村上紀文はそれ以上言わなかった。
振り返って玄関へ向かった。
出発する前に、少し躊躇してから使用人に言った。「朝食を一人分包んでください。」
渡辺菖蒲は驚いた様子。
「胃の調子が悪くて、昼用です。」村上紀文は説明した。
渡辺菖蒲も深く考えず、心配そうに言った。「また調子が悪くなったの?ちゃんと時間通りに食事をするように言ったでしょう。紀文、母さんにはあなた一人しか息子がいないのよ。この世界で私たち親子二人だけなのに、あなたが自分の健康を大切にしないなら、母さんはこれからどうやって生きていけばいいの?」
村上紀文は軽く返事をした。