第207章 斎藤咲子、私の死を望んでいるだろう!

夜の斎藤ビル。

高層階に立ち、東京の美しい夜空と、壮大な街並みを一望することができた。

村上紀文は床から天井までのガラス窓の前に立ち、目の前の景色を眺めていた。

かつて、どれほどの時間をこうして過ごしてきたことだろう。

斎藤グループに早く馴染むため、自分の居場所を作るため、そして父の仇を討つため、彼は全力を尽くしてここで働いてきた。最下層から始め、斎藤祐は一歩一歩上がってきてこそ会社のことを理解できると言った。

今考えてみれば、おそらく斎藤祐はただの口実だったのだろう。困難を知って諦めさせようとしただけで、本当に育てる気などなかったのだ。しかし、彼は実力だけで一歩一歩今の地位まで上り詰めた。それほど時間もかからなかった。もちろん、母が時折裏で後押ししてくれたことも否定できないが。

胃の中が、絶え間なく痛んでいた。

おそらくあの頃から、食事を忘れがちになり、徹夜を重ねた結果、胃がこんな状態になってしまったのだろう。

彼は振り向き、オフィスのテーブルに置かれた出前を見た。養生粥だった。秘書は何年も彼に付き添い、胃の具合が悪いことを知っているので、いつも胃に優しい食事を用意してくれる。今この時も、まだ半分ほど残っていた。彼はゆっくりと歩み寄った。

スプーンを手に取り、一口一口食べ始めた。

これは彼のお気に入りの粥屋だった。彼女は...気に入ってくれるだろうか。

ドアの外で、秘書がノックをした。

村上紀文は振り向き、秘書が半分残った粥を持って少し気まずそうにしているのを見た。

村上紀文は特に表情を変えず、淡々と食べ続けた。

秘書は言った。「斎藤会長が、結構ですと」

村上紀文は頷いた。「置いていきなさい」

秘書は恭しく半分残った粥を村上紀文の前に置き、立ち去ろうとした。

「他に何か言っていたか?」村上紀文は尋ねた。

斎藤咲子がそれだけしか言わなかったはずがないと見抜いていたかのようだった。

秘書は少し躊躇した。

専務の様子は一見無関心そうに見えたが、彼女を見逃すつもりはなさそうだった。

彼女は覚悟を決めて、「斎藤会長は、あなたの物は毒が入っているかもしれないと怖いとおっしゃっていました」

村上紀文の表情が微かに変化した。