斎藤グループの社長室にて。
斎藤咲子は村上紀文を見つめていた。
村上紀文は彼女のことを「社長」と呼んだ。
口調に表れていなくても、どこか皮肉めいて聞こえた。
彼女は数秒黙り込んだ。確かに自分が感情的になりすぎていたと感じた。グループを本当に掌握するためには、何事も客観的で冷静でなければならないことは分かっていた。村上紀文のように、彼女を殺したいほど憎んでいても、この瞬間は自ら彼女を訪ねてくるのだ。
「10分」と彼女は言った。
「ありがとうございます」と村上紀文は率直に答えた。
斎藤咲子は唇を噛んだ。
今日の村上紀文は...何か変だった。
どこか不可解な感じさえした。
根岸峰尾はすでに下がっていた。
村上紀文は斎藤咲子の前に座り、「これはゴルフリゾートの提携案です。この提携案は以前あなたに署名してもらった提携協定とは異なります。協定には主に制約条項が記載されていますが、実際の提携内容はこの中にあります。内容は多岐にわたりますので、ゆっくりご覧ください」
斎藤咲子は眉をひそめた。
「要点を簡単に説明させていただきます」村上紀文は冷淡な口調ながら、この瞬間は真剣そうだった。「まず第一に、当初の提携企業MRWが契約締結前に違約・撤資しました。正式な契約がない以上、法的手段で賠償を求めることはできません。法的効力がないため、今回は泣き寝入りするしかありません。これは私の不手際です。第二に、新しい提携先の永和グループは、観光地やリゾート、ホテルなどの推進を主力とする企業です。もちろん、小規模な不動産開発も手がけていますが、規模は大きくありません。しかし、近年は推進活動に力を入れており、ユーザー基盤が非常に強固です。提携すれば、彼らのプラットフォームを通じて我々のリゾートの露出を増やすことができます」
斎藤咲子は村上紀文を見つめた。彼は永和を選んだ理由を説明しているようだった。