優美なレストラン。
村上紀文は煙草の吸い殻を消した。
彼は携帯の画面に表示された着信を見つめた。
母からだった。
彼が外に出ていた時間は少し長かったようで、隣の灰皿には吸い殻が何本も増えていた。
彼は直接電話を切った。
喫煙所を出た。
ホールに入ると、冬木郷とばったり出くわした。
冬木郷はトイレに行く途中で、こうして村上紀文と出会った。
彼は眉をひそめた。
この男はタバコを吸いすぎだ。
何か言おうとする前に、村上紀文は彼の横を通り過ぎて行った。
冬木郷は村上紀文の後ろ姿を見つめた。
正直に言うと。
彼は本当にこの男が嫌いだった。
一人の女性に執着するなんて、軽蔑せずにはいられなかった。
村上紀文は大股で歩き、斎藤咲子のテーブルの前を通り過ぎたが、彼女は気付かなかった。
彼女は目の前のデザートを少しずつ、とても真剣に食べていた。
彼は個室に戻った。
静かに母の隣に座った。
中の人々は上機嫌で飲んでおり、最初は赤ワインだったのが、今では度数の高い洋酒に変わっていた。
渡辺菖蒲は息子が戻ってくるのを見て、顔をしかめた。「どこに行ってたの?随分長かったわね」
「タバコを一本」
「一本どころじゃないでしょう。タバコ臭いわよ」
村上紀文は答えなかった。
「これからはタバコを控えなさい。体に良くないわ」渡辺菖蒲は注意した。
「はい」村上紀文はいい加減に返事をした。
渡辺菖蒲はもう息子に構わず、他の取締役たちと再び酒を飲み始めた。
「おや、年齢を合わせると200歳にもなる我々だけが飲んでいるのはおかしいじゃないか。この若者が一滴も飲まずにここに座っているなんて、それは良くない!」村上武はようやく、村上紀文がずっとグラスに手を付けていないことに気付いたようだった。
渡辺菖蒲は言った。「ああ、紀文はここ数日残業で食事が不規則で、胃を壊しているんです。少し控えめにさせてください」
「少し控えめでも、全く飲まないというわけにはいかないでしょう。さあさあ紀文」村上武は少しと言いながらも、村上紀文のグラスに満杯に注いだ。「私の息子も君と同じくらいの年だ。つまり私は君の先輩にあたる。叔父さんということで、今は仕事の話は抜きにして、叔父さんと二杯三杯やろうじゃないか」
村上紀文は飲みたくなかった。