斎藤邸。
この時間はそれほど遅くはなかったが、決して早くもなかった。
夜空には星が輝いていた。
満天の星々が村上紀文の異常な行動を見つめていた。
斎藤咲子の抵抗は、あまりにも無力だった。
彼女の口は村上紀文の手で塞がれ、声を出すことができず根岸峰尾を呼ぶこともできなかった。彼女の体は玄関脇の壁に押し付けられ、もがくたびに背中が傷つくばかりだった。
彼は酔っているのかもしれない、と彼女は思った。
アルコールの臭いが体中から漂っていたから。
いや、酔っているわけではなく、ただ復讐したいだけなのかもしれない、と彼女は思った。
今の彼女が幸せに暮らしているから。
彼と彼の母親は、彼女に少しでも幸せがあることを許せないのだ。
だから彼女の全てを破壊しようとしているのだ。
彼女は慣れていた。