第235章 村上紀文、お前は斎藤咲子のことが好きなのか!(3)

斎藤邸。

この時間はそれほど遅くはなかったが、決して早くもなかった。

夜空には星が輝いていた。

満天の星々が村上紀文の異常な行動を見つめていた。

斎藤咲子の抵抗は、あまりにも無力だった。

彼女の口は村上紀文の手で塞がれ、声を出すことができず根岸峰尾を呼ぶこともできなかった。彼女の体は玄関脇の壁に押し付けられ、もがくたびに背中が傷つくばかりだった。

彼は酔っているのかもしれない、と彼女は思った。

アルコールの臭いが体中から漂っていたから。

いや、酔っているわけではなく、ただ復讐したいだけなのかもしれない、と彼女は思った。

今の彼女が幸せに暮らしているから。

彼と彼の母親は、彼女に少しでも幸せがあることを許せないのだ。

だから彼女の全てを破壊しようとしているのだ。

彼女は慣れていた。

この母子の残虐な仕打ちに慣れていた。

でも彼女は辛くなんかなかった。いつか必ず倍返しにして復讐してやる。ただ耐え忍び、生き延びさえすれば、必ず復讐できる時が来る。

彼女はもがくのを止めた。

次第に、彼は少し優しくなったように感じた。優しく...彼女の熱い涙を味わっていた。

一滴また一滴と、彼の唇の端に落ちていく。

とても塩辛い味だった。

その瞬間、村上紀文は突然凍りついたかのようだった。

まるで石になったかのように、全く動かなくなった。

彼は彼女の体から手を放した。

目の錯覚か、涙で視界がぼやけていたせいか、村上紀文の表情に戸惑いが浮かんでいるように見えた。

はっきりと見えた時には、いつもの彼女が吐き気を催すような嫌悪感を抱く顔に戻っていた。

お互いを見つめ合う。

斎藤咲子は服すら直す気にもならなかった。

村上紀文にとって、彼女に清らかさなどあるはずもない。

一度、二度、何度も...こうして乗り越えてきたではないか?

静寂が漂う空間。

「発散は十分?」斎藤咲子は尋ねた。

村上紀文は喉が動いたようで、口を開いたが何も声は出なかった。

「もう十分なら、どいてください」

村上紀文は彼女の帰り道を遮っていた。

彼女にはよくわかっていた。村上紀文が許さなければ、この門をくぐることはできない。

でもこの家を出て行くべき人間は、決して彼女ではない!

「咲子...」村上紀文は彼女を呼んだ。

なんて滑稽なことだろう。