婚約披露宴の会場全体。
巨大な高精細スクリーンに、一本の動画が流れていた。
動画の中で、斎藤咲子は服装が乱れた状態で斎藤邸の正門前にいた。
動画の画質はそれほど鮮明ではなく、明らかにスマートフォンで撮影されたものだった。
そんな解像度でも、その人物が斎藤咲子であることは明らかで、そして彼女にキスをしていた人物は、冬木郷ではなかった……
会場全体が爆発したかのように騒然となった。
司会者は慌てて、スタッフに「止めて、止めて!」と叫んだ。
その慌てぶりが、会場をさらに混乱させた。
動画は突然切断された。
その瞬間、会場は逆に静まり返った!
全ての視線が、ステージ上の新郎新婦に注がれた。
斎藤咲子の手は、まだ冬木郷に握られていた。しっかりと握られていた。
しかしその瞬間、斎藤咲子は冬木郷の温もりを感じられなくなっていた。
彼女は唇を強く噛んだ。
彼女にはわかっていた。村上紀文が彼女を簡単には許さないということを。
しかし、彼がここまで卑劣な手段を取るとは思っていなかった。
この動画はいつ盗撮されたのだろう?
そうだ。
あの夜、村上紀文は酔っていると言った。酔っていたからこんなことをしたと言ったのだ!
実際は。
これは全て、その後の彼女への復讐のための計算だったのだろう。彼女を困らせ、恥をかかせ、これほど多くの人々の前で、顔向けできなくするために!
照明は依然として彼女に当たっていた。彼女の顔は真っ青だったが、その時泣くことはなく、強く立っていた。
宴会場は最初の静寂から、鴉雀無声となり、その後混乱に変わった。会場の全ての人々がスタッフによって丁寧に退場を促されていた。
誰も表立って何かを言うことはなく、婚約披露宴は中止となった。
村上紀文は群衆の中に立っていた。彼は遠くから斎藤咲子を見つめ、彼女の痩せた体が冬木郷の服をしっかりと掴んでいるのを見た。しかしそれは依存を求めているのではなく、ただ自分に強くあれと言い聞かせているだけだった。
彼は斎藤咲子が自分を必要としていないことを知っていた。むしろ今この瞬間、彼女は自分を殺したいとさえ思っているだろう。それでも彼はステージの中央に向かって歩き出した。
腕を、突然誰かに掴まれた。
村上紀文は振り返り、母親を見た。
「行ってはダメ!」渡辺菖蒲は一字一句はっきりと言った。