婚約披露宴の会場全体。
巨大な高精細スクリーンに、一本の動画が流れていた。
動画の中で、斎藤咲子は服装が乱れた状態で斎藤邸の正門前にいた。
動画の画質はそれほど鮮明ではなく、明らかにスマートフォンで撮影されたものだった。
そんな解像度でも、その人物が斎藤咲子であることは明らかで、そして彼女にキスをしていた人物は、冬木郷ではなかった……
会場全体が爆発したかのように騒然となった。
司会者は慌てて、スタッフに「止めて、止めて!」と叫んだ。
その慌てぶりが、会場をさらに混乱させた。
動画は突然切断された。
その瞬間、会場は逆に静まり返った!
全ての視線が、ステージ上の新郎新婦に注がれた。
斎藤咲子の手は、まだ冬木郷に握られていた。しっかりと握られていた。
しかしその瞬間、斎藤咲子は冬木郷の温もりを感じられなくなっていた。