車内。
冬木空は振り向かなかった。
上野和明は助手席に座っていた。
二人が半秒の沈黙の後、冬木空は突然車から小型の監視カメラを取り出した。
上野和明は顔色を変えた。
冬木空は言った、「お前のだろう!」
上野和明は冬木空を睨みつけた。
彼が知っているとは。
華から北村忠の携帯のケースに仕掛けたと聞いていたが、こんなに早く見つかるはずはないと思っていた。
「持って帰れ」冬木空は言った、「俺はお前らが思っている以上の能力がある。だから監視しようとするな。監視できると思うなよ」
上野和明は小型カメラを手の中で握りしめた。
確かに。
以前は冬木空の腕が立つことしか知らなかったが、こんなに深く隠していたとは。
青木太一を追い詰めることができるなんて。もし彼がいなければ、今頃青木太一は死体になっていただろう。
驚かざるを得なかった!
「今日は鈴木知得留がいなければ、お前は確実に死んでいた」冬木空は本題に戻った。
上野和明は彼を見つめた。
「俺は自分に関係のない人間のために、武器を下ろすことはない」冬木空は率直に告げた。鈴木知得留がいなければ、確実に死んでいただろう。「だが今お前は生きている。鈴木知得留が命を賭けて脅したからだ。そして俺は、鈴木知得留が何かに遭遇した時、お前も同じように彼女に接することを望む」
「言われなくてもわかっている!」上野和明は強く言い返した。
「そうであることを願う」冬木空は車のドアを開けた。「早く帰れ」
彼は去っていった。
上野和明は冬木空の背中を見つめ、表情は険しかった。
彼は常々感じていた。冬木空は多くのことを知っている。彼らが知らないと思っている多くのことを。
……
冬木空はエレベーターに乗り、広大な自宅に戻った。
彼はソファに座り、二階には上がらず、タバコを吸っていた。
一本また一本と。
鈴木知得留は風呂を済ませ、二階で長い間待っていたが冬木空が戻って来なかったので、下りて様子を見に行った。
彼がソファに座り、彫刻のように動かずにいるのを見た。
鈴木知得留は黙って彼を見つめ、感情を整理する時間が必要なのだろうと思った。
だから邪魔はしなかった。
彼女は二階に戻ろうとした。
「奥様」冬木空が呼んだ。
甘い響きはなく、ただ呼びかけただけの平坦な声だった。