北村系ビル。
エレベーターの中で、木村文俊と冬木心が上階から降りてくるところだった。
北村忠は道明寺華の手を引いていたが、エレベーターに入ろうとした足が一瞬止まった。
そのまま、数秒間の沈黙が流れた。
エレベーター内には冬木心と木村文俊の他に、井上明もいた。
井上明が口を開いた。「北村さん、こんな遅くまで会社にいるんですか?この方は?」
北村忠は井上明を横目で見たが、返事はしなかった。
彼は道明寺華の手を引いたまま、そのまま中に入った。
エレベーター内は、何とも言えない気まずい空気が漂っていた。
井上明は北村忠が応答しないのを見て、それ以上何も言わなかった。
彼にとって、この遊び人の坊ちゃんなど、好きにさせておけばいい、眼中にもないのだ。
それに対して木村文俊は、相変わらず良い人を演じていた。