広々とした大広間。
北村忠は、父が母に向かって突進していくのを見ていた。
広橋香織は警戒した表情で北村雅を見つめ、彼が千鳥足でありながら素早く動き、一気に彼女をソファーに押し倒すのを見た。
北村忠は目を丸くして見つめていた。
「離れなさい!」広橋香織は北村雅を押しのけた。
広橋香織は怒りで顔が青ざめていた。
北村忠はそばでただ見ているだけだった。
「忠!」広橋香織は北村雅にどうしようもなくなり、傍観している北村忠を呼んだ。「来て、お父さんを連れて行って、早く!」
「忠!」広橋香織は叫んだ。
まさに嫌悪感と絶望感そのものだった。
北村忠は自分の耳をこすった。
彼は前に出て、酔っ払った父親を引っ張り上げた。
広橋香織はソファーから立ち上がり、北村雅を嫌悪感たっぷりの目で見つめ、怒りと絶望に満ちていた。
北村忠に抑えられながらも、北村雅は体をよじらせ、また近づこうとする様子で、口から悪意のある言葉を吐いた。「広橋香織、言っておくが俺はまだまだ若いんだぞ!」
広橋香織は北村雅の言葉を聞いて、さらに表情が険しくなった。
彼女は北村雅を睨みつけ、傍らで完全に面白がっている北村忠を一瞥すると、怒りを抑えきれず、手を振り払って立ち去った。
北村雅は広橋香織の背中を見つめながら、まだ大声で叫び続けていた。「広橋香織、待て、待てるものなら待ってみろ...」
広橋香織はすでに去っていた。
彼女が去ってずいぶん経っても、北村雅はまだ呟き続けていた。
北村忠は父親も大変だなと思った。
彼は再び父親を背負って二階に運んだ。
一体どれだけ飲んだのか、こんなに酔っ払うなんて。
北村忠は父親をベッドに寝かせ、真っ赤な顔で呼吸も乱れがちな様子を見て、仕方なくスーツを脱がせ、ズボンを脱がせ、タオルで体を拭き、顔を洗い、寝かしつけた。
全てを終えて、まさに立ち去ろうとした時。
北村雅が突然ベッドから起き上がった。
まっすぐに座り、北村忠を見つめていた。
北村忠は父親のその様子に驚いた。
これは酔っ払い暴れの前兆だ。
「忠」北村雅は息子を大声で呼んだ。
北村忠はその場に立ち尽くした。
「お前の母さんは?」
「隣で寝てます」
「ここに来させろ」北村雅は命令した。
「来ないと思います」