第350章 矛盾の激化(2)斎藤咲子の主動的な接近

結局。

斎藤咲子は背を向けて立ち去った。

村上紀文に対して、そこまでの思いやりはなかった。

翌日の午前中、村上紀文は定刻通りに出勤した。

彼がオフィスに現れた時、黒いスーツを着て、背が高くすらりとしていて、つい最近手術を終えて病院から直接来たとは全く見えなかった。

村上紀文はゆっくりと自分の椅子に座った。腹部の傷は順調に回復していたが、10日ほどで完治するわけがない。

だから慎重に動かなければならなかった。

彼が座ったばかりの時。

その瞬間、服が少し窮屈に感じた。

スーツもワイシャツもオーダーメイドで、大きすぎても小さすぎてもいけない。着た時に見栄えが悪くなるからだ。しかも彼らのような立場の人間は、服装にうるさく、仕事や公式の場では常にスーツをきちんと着こなし、品格を保っている。

村上紀文は我慢しながら、スーツのボタンを外し、さらにワイシャツのボタンを一つずつ外していった。

お腹の辺りの一番きつい部分のボタンを外したところで、ドアをノックする音が聞こえた。

彼が顔を上げると、ドアの前に立っている斎藤咲子が見え、彼女は書類を手に持っていた。

その瞬間、彼女の目は包帯で巻かれた彼の腹部の傷をじっと見つめ、彼を見ながら、また一つずつボタンを留め直す彼の姿を、明らかに窮屈そうな服装を見ていた。

彼は服装を整え、「入りなさい」と言った。

斎藤咲子は入室し、村上紀文の向かいに座り、手にした書類を彼に渡して言った。「こんなに早く来るとは思わなかったわ。でも来たからには、この書類、ジョーンズとの提携案よ。見ておいて。後でジョーンズに聞かれても、何も答えられないなんてことにならないように」

「結構です」村上紀文は即座に断った。

斎藤咲子の目が鋭くなった。「どういう意味?」

村上紀文は彼女を見つめた。

だから斎藤咲子は彼が断ると思っていた。

彼が見る必要がないと言ったのは、ただジョーンズとビジネスを話し合う立場ではなく、単なる同行者に過ぎないからだった。深く関わる必要はなかった。

彼は、知れば知るほど斎藤咲子の警戒心が強くなることを恐れていた。

「ここに置いておいてください」この瞬間、彼は突然妥協した。妥協した理由はただ、斎藤咲子とさらなる対立を避けたかったからだ。